人事管理や財務管理などのシステムをSaaSで提供するワークデイは6月25日に年次イベント「Workday Elevate Tokyo」を開催した。「経営人事と人財管理のデジタル変革がイノベーションとビジネスの成長へ」をテーマに、同社ビジョンや導入事例、ソリューションなどが披露された。
特別講演では、デジタル人材のキャリア設計を話題の中心としたパネルディスカッションが実施された。日本ロレアル CDO(最高デジタル責任者)の峯廻聡美氏とパーソルホールディングス Chief Digital Officer兼グループデジタル変革推進本部 本部長の友澤大輔氏がゲストで登壇し、モデレーターはCDO Club Japan 理事 事務総長の水上晃氏が務めた。
さまざまな業界でデジタル変革が進む昨今、企業はその推進役を担うデジタル人材の育成や確保が重要な課題になりつつある。企業のデジタル化を推進する旗振り役となるCDOには、テクノロジーへの知見だけでなく、ビジネスに対する理解やコミュニケーション能力も求められる。CDOをはじめとするデジタル人材の確保をめぐっては、「社外から招へいすべきなのか」「社内で育てるにはどうしたらいいか」「デジタル人材のスキル設計ができない」など、CDO Club Japanにも日々さまざまな相談が寄せられているという。
CDOに求められる人物像については、「デジタルリーダー=変革者」というイメージが強いと友澤氏は話す。その一方で、社内調整といった「泥臭い」作業が業務のほとんどを占めるなど、世間で語られるイメージと現実には大きなギャップがあるとする。
パーソルホールディングス Chief Digital Officer兼グループデジタル変革推進本部 本部長の友澤大輔氏
「デジタル変革には、組織変革が必要となる」(友澤氏)。人を変える、企業文化を変えるといった場合には、デジタル施策そのものよりもコミュニケーションの方が重要になることもある。峯廻氏もこれに同調し、ロレアルのような数多くのブランドを抱える企業では、デジタル施策を進めるにしても利害関係者が多く、その関係も複雑なものとなっている。その中で会社の戦略に沿った最適解に結び付けるには、高いコミュニケーション能力が求められる。
「デジタルはレバレッジが利くため、うまくはまったときの変化の幅が大きく、成果も見えやすい。非常に強いプレッシャーも感じるが、きちんと説明すれば投資や支援を得られる」と峯廻氏はCDOとしてのやりがいを説明する。
デジタル人材に関して友澤氏は、リーダーと現場担当者で求められるスキルが異なると話す。同氏によると、デジタル戦略をけん引するリーダーには対人能力などを指すソフトスキルが、現場担当者には体系だった知識を指すハードスキルが必要になる。加えて、CDOには、企業が求める行動特性(コンピテンシー)と合致しているかどうかも見極めなければならないという。
特に日本企業はコンピテンシーについてあまり重視しない傾向にある。また、キャリアアップを考える上で、ハードスキルからソフトスキルへ切り替えるタイミングがなかなかつかめないという問題もある。
「テクノロジーは外に求められるが、人を巻き込む能力は社内で育てるしかない。社内インフルエンサーのような熱量が求められる。デジタルの範囲は広範に及ぶため、得意分野があってそれを軸に広げていける人が適任ではないか」(峯廻氏)
日本ロレアル CDO(最高デジタル責任者)の峯廻聡美氏
友澤氏は、デジタル人材を「求心力」「遠心力」「コネクター」という3つのタイプで説明する。求心力は、社内外からやりたいことを集めて、人々を巻き込んでいくタイプ。遠心力は、ビジネスの現場に精通し、熱量を持って事業を推進するタイプ。「両者は衝突することが多い」(同氏)ため、その間を取り持つ存在が必要になる。それがコネクターだ。
「コネクターは見つかりそうで見つからない」と友澤氏は話す。また、成果が実っても求心力人材や遠心力人材の陰に隠れてしまい、評価として現れにくいという。「一緒にやりやすい」といった評判やいろんな人からよく名前が挙がる人物にコネクターとしての素養があるようだ。
「コネクターは通訳のような役割。コネクターの素養のある人に、デジタルの能力を足していくとデジタル人材になるのではないか」と峯廻氏は指摘する。一方で、デジタル人材のキャリアパスが見えない点を懸念する。非IT企業におけるデジタル人材のキャリア形成については、議論の余地がありそうだ。
「経営資源はヒト、モノ、カネと呼ばれるが、人材の部分はまだデジタル化ができていない。今後10年で劇的に変化する領域で、人事部門と一緒になって取り組まなけらばならない」(友澤氏)
CDO Club Japan 理事 事務総長の水上晃氏