内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

不連続型イノベーション創出のための発想法

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2019-07-17 06:00

 デジタルトランスフォーメーション(DX)に関わる活動には「業務の高度化や顧客への新規価値の創出」(漸進型イノベーション)と「新規ビジネスの創出やビジネスモデルの変革」(不連続型イノベーション)があり、本連載の前回「デジタル技術を活用した業務革新の着眼点」では漸進型イノベーションを検討する際の着眼点について述べました。今回は、不連続型イノベーションを検討する際の考え方について述べます。

ビジネスとテクノロジーをいかに結び付けるか

 これまで、ビジネスや業務でテクノロジーを活用する際は、ビジネス上の課題やニーズに対して、その解決策および実現策としてテクノロジーを当てはめるという「課題解決型」のアプローチが主流であったといえます(図1)。

 このアプローチは、従来の事業における業務の高度化や顧客への新規価値の創出(漸進型イノベーション)においては有効です。そこにはこれまで推進してきた事業があり、それを遂行するための業務プロセスが存在していますので、その中で発生していたり、このままの状態では今後発生したりするかもしれない課題や問題点を見つけ出し、それを解決することで改善や高度化が実現できるからです。

 しかし、不連続型イノベーションは、新規の事業を創出したり、ビジネスモデルを大きく転換したりしなければなりません。そこに課題解決型のアプローチは通用しません。そもそも、新規事業や新しいビジネスモデルは、まだ存在していませんので、課題や問題点を事前に特定することはできません。

 そのような場合は、新技術の普及や低廉化といった技術シーズを受けて、ビジネスへの適用可能性を探索する「シーズ提案型」のアプローチが考えられます。例えば、無線ICタグ(RFID)の低廉化という技術シーズを受けて、倉庫での資材の棚卸しへの活用を検討するといった応用的活用のアイデアを発想します。

 しかし昨今では、デジタル技術を活用した新しいビジネスが次々と台頭していますし、デジタル技術自体も日々進化しています。従って、ビジネスの環境変化やテクノロジーの将来動向を予見して、それらを結び付けることで生み出される新規ビジネスの創出やビジネスモデルの転換を実現するアイデアを創出するアプローチも考えられます。不連続型イノベーションの創出においては、この「アイデア駆動型」が有効な場面が多いと考えられます。

図1.ビジネスとテクノロジーの関係(出典:ITR) 図1.ビジネスとテクノロジーの関係(出典:ITR)
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3Cと4Pを変える発想の転換

 多くの企業、とりわけ大企業は、これまで自社の商品や販売網、宣伝の仕方、品質や価格などに優位性を持っていたことで成功を収めてきました。しかし、その成功がいつまでも続くとは限りません。外部環境が著しく変化する時代においては、これまでの延長線上の戦略ではなく、新たな価値を創出し、市場を切り開くような大胆な発想の転換が必要となります。特に、ビジネスモデルを大きく転換したり、新規ビジネスや新サービスを創出したりする際のアイデアでは、これまでの常識を覆すような発想が求められます。

 その方法として企業戦略の立案やマーケティングのフレームワークで用いられる3C(顧客、競合、自社)および4P(商品、価格、プロモーション、流通)を変えてみる発想が有効です(図2)。

図2.3C・4Pを変える発想(出典:ITR) 図2.3C・4Pを変える発想(出典:ITR)
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 これら3C・4Pの1つでも変えることで、全く新しい価値観を見出すことができたり、ビジネスモデルの転換が果たされたりする場合があるからです。

 企業はこれまでも、時代の潮流や顧客ニーズの変化に対応して自らを変容させてきました。しかし、これから起ころうとしているパラダイムシフトは、ここ数十年でわれわれが経験したものと異質のより大きな転換である可能性が高いと考えられます。これは大きな危機であると同時に大きな好機でもあります。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 会長/エグゼクティブ・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任しプリンシパル・アナリストとして活動を続け、2019年2月に会長/エグゼクティブ・アナリストに就任 。ユーザー企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを提供している。講演・執筆多数。

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