2019年は梅雨がなかなか明けなかったところも多いが、季節は夏真っ盛りとなった。いろいろと夏を楽しむ計画を立てている方々も多いと思うが、夏休みは子どもたちが宿題で苦労する季節でもある。特に自由研究の課題については、親も一緒に頭を悩ませてしまうことが多いだろう。
そのような人々への手助けになるかどうかは分からないが、今回はUI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)をテーマに自由研究の課題を探ってみたい。子どもと考えるUI/UX、子ども目線のUI/UXなどを考えてみるのはどうだろうか。
子どもの発達と「他者」目線の想定
UXとは、利用者が何らかのシステムやサービス、道具などを使った、あるいは使うと想定したことに対して受ける感覚や反応のことである。UXを考えるには、システム利用者の状況を想定し、彼らの目線に立って一連のやりとりなどを考える必要がある。当たり前だが、そのためにはまず「自分が知っていることと他者が知っていることは違う」といった心的理解が必要になる。こうした能力は生まれつき持っているわけではなく、成長の過程で発達していくものである。
3歳くらいの小さな子どもはまだその判断ができない。例えば、「サリーとアンの課題」と呼ばれる心理検査に正解できないことが知られている。その課題とは次のようなものだ。
1.同じ部屋で一緒にサリーとアンが遊んでいる
2.サリーはビー玉をカゴに入れて部屋を出る
3.サリーがいない間に、アンがカゴの中のビー玉を箱の中に移す
問:サリーが部屋に戻ってきてビー玉を取り出そうと思ったとき、まずどこを探すか?
正解はもちろん「カゴの中」である。他者の心的理解がまだ発達していない子どもは「箱の中」と思ってしまう。一般的には4~7歳くらいで能力が発達し、正解率が上がるといわれている。
そうすると、小学校の低学年くらいでは、まだこうした基本的な他者理解までしか期待できない。その段階では、より踏み込んで他者の心の動きなどを理解したり、想像したりする必要があるUXの(しっかりとした)考察は難しいだろう。また、何かをするときの「手段」と「目的」を正しく区別することも難しいだろう。
そういうときは無理せず、成長の段階に合わせて「自分がものを使うときに何を考え、どのように感じているのか」といったところから入るのがいい。あるいは、よりシンプルに自分が使う道具を観察するのでもいい。子どもが理解する様子を観察、対話していくことで、大人の方も他者の心的理解を深められるだろう。
観察していろいろな「他者」の存在を知る
UXを考えるためにもう1つ必要なことは、よく観察することである。自宅にある家電製品のボタンの配置や表示、街中で見かける案内板や各種標識など、身近にあるもので考えてみるというのは、子どもがUXや情報デザインに触れる第一歩として悪くない(もちろん、街中での観察などに当たって大人が安全に十分注意を払っていただきたい)。旅行などに行く際は、道中の案内板に注目してみるのもいいだろう。
こうしたものを単に集めるだけでも十分に興味深いだろうが、それらがどのような人たちのために、何を伝えようとしているのかなどを調べてまとめれば、とても良い自由研究になり得る。
また、これはいろいろな「他者」が存在するということを認識するための第一歩となる。われわれが暮らす社会やそれを構成する人々に対する興味や関心を持ち始める機会にもなる。
自分で探して見つけたものをきっかけとして身に付けた知識はより印象深いものになり、そこから先にも進みやすい。それが、自由研究をやることの大きな価値ある体験の1つである。特に自分で学ぶことのモチベーションにもつながる。
伝えることの難しさを知る
的確に伝える/伝わるための方法を考えるのも、UXやUIを考える上で重要な要素になる。使い慣れている家電やアプリなどの使い方(=説明書)を、自分で書いてみるというのも面白い。地図を書かずに言葉だけで道案内をするというのもいいだろう。
頭で分かっていること、特に無意識で理解していることを具体的に説明するのは、大人であっても簡単ではない。そして、意図した通りに解釈してもらうのはさらに難しい。
これもまず、それが難しいことだと子どもに実感してもらうのが第一歩になる。表現のあいまいさや情報の欠落がなく、誤解されないように説明するのがどれほど大変であるかを体験もらうのである。説明書を作ってみるだけでもかなり苦労するはずだ。自作の説明書と実際の説明書を見比べて、言葉の足りないところや工夫を凝らしたところ、分かりやすいと思ったところなどを検討してみると、さらに理解が進むだろう。
そして、できれば自作の説明書を家族や友人に見てもらい、実際に操作してもらったりして、どの程度「伝わる」のかを見てみるといいだろう。「なぜ意図したように伝わらなかったのか」を観察し、その理由を考えて説明を改善することができれば、かなり素晴らしい自由研究になり得る。
課題を探し、解決策を練る
小学校高学年~中学生くらいになれば、日常の暮らしの中で「使いづらい」と思うものを探し出し、それを観察・分析してUIを改善する方法を考案してみることもできるだろう。道具や機械などが使いづらい、案内板が分かりづらいようなとき、その原因を考えて取り除いだり補ったりするには、何に着目してどう工夫すればいいのか。とても興味深い課題となるだろう。
そして、解決策や改善案を試行してみて、意図した通りに(自分や他人が)使えるか、さらなる改良が必要な部分はどこかを調べられるとさらにいいだろう。ささやかな課題に対してでも、そこまでできればなかなかな量の自由研究になり得る。Bad UIを紹介した過去記事なども参考にされたい。