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変化のための2つの方向性--NTTデータの人材育成と組織づくり

國谷武史 (編集部)

2020-06-12 06:00

 NTTデータで取締役常務執行役員 技術革新統括本部長 技術戦略担当を務める木谷強氏は、ビジネスモデルの変革を目指す取り組みにおいて、「日本のIT技術者が新しい技術で世界最先端のサービスを仕掛けることができるようにしたい」と語る。同氏は「変える勇気」と「変わらぬ信念」という2つの軸で、新しい人材育成の仕組みと組織づくりに取り組んできたという。

変わるために変わらないこと

 NTTデータは、2021年度を最終とする中期経営計画(中計)で売上高2兆5000億円、営業利益率8%を目標に掲げる。5月14日に発表した2019年度(2020年3月期)の連結業績は売上高が前期比4.8%増の2兆2268億円、営業利益率が同1ポイント減の5.8%だった。コロナ禍の影響や海外の不振プロジェクトなどの整理もあり中計目標に対する進展は道半ばだが、木谷氏は「利益率低下は一過性のもので、2020年度は成長を目指す」と話す。

NTTデータ 取締役常務執行役員 技術革新統括本部長 技術戦略担当の木谷強氏
NTTデータ 取締役常務執行役員 技術革新統括本部長 技術戦略担当の木谷強氏

 中計での戦略は3つ。ビジネスモデルを受託型開発・運用からソリューション提案型に変える「グローバルデジタルオファリングの拡充」、売上高の約4割を占める海外事業での収益性を高める「リージョン特性に合わせたお客さまへの価値提供の深化」、そして木谷氏が所管する技術革新統括本部を中心とした「グローバル全社員の力を高めた組織力の最大化」になる。

 技術革新統括本部は、同社グループ全体の技術におけるコストセンターとして約1200人が在籍し、購買調達、社内システム、セキュリティ、ガバナンス、開発プロジェクトの提案や支援、先端技術の研究開発などを担う。海外では、グループ各社で同様の役割を果たすCenter of Excellence(CoE)を仮想的に組織し、技術革新統括本部が日本から各国のIT技術者を支援している。

 木谷氏が人材育成と組織づくりで挙げる「変える勇気」は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みだ。多くの顧客企業がDXを志向し支援を求めるようになり、ITシステムの受託開発・運用を中心としたこれまでの同社のビジネスモデルを変えていく。

 「NTTデータは、お客さまや社会との信頼関係を保ちながらしっかりと仕事をすることを大切にしてきた。DXにまつわる技術革新が目まぐるしい今、DXを推進するために『変える勇気』を持ち、その姿をしっかり見せる。かつてはお客さま向けのシステムで最新技術を提案するという機会はなかなか難しく、担当技術者が先端技術に触れる機会も少なかった。技術革新統括本部が技術集約組織として最先端の技術をキャッチアップし最前線の事業に反映していく役割を担っている」

 具体的な取り組みの1つが、DX人材を育成する「デジタルアクセラレーションプログラム」になる。各事業部で顧客システムの開発や運用を担う技術者が技術革新統括本部で約2カ月にわたってDX関連の先端技術を習得し、その後も2年ほど同本部でDXの実務を通じてスキルを高め、事業部に戻り顧客のDX支援をリードする。新入社員も同様に、事業部門への配属でもまず同本部でDXのスキルを習得、習熟し、その後に配属先で顧客のDXを担当していく。

 海外ではCoEがこれを担う。現在は人工知能(AI)とアジャイル/DevOps、サービスデザイン、ブロックチェーンの4つのCoEがあり、特にブロックチェーンのCoEには24カ国から300人の技術者が参加している。6月11日には、新たにIoT、インテリジェントオートメーション、ソフトウェアエンジニアリングオートメーションのCoEの立ち上げを発表し、2021年度末に約5000人の先進的な技術者を育成する計画だ。

 木谷氏が挙げるもう1つの「変わらぬ信念」は、従来のビジネスで確立された日本の社会インフラを支えるミッションクリティカルシステムでの信頼と実績だ。同社は、国民生活に欠かせない金融や交通をはじめとする多くの社会インフラシステムの構築・運用を担う。

 「万一ミッションクリティカルシステムが停止すれば、人命や生活に甚大な影響が生じる。全社員が日本の社会インフラを絶対に止めることなく社会に貢献するという仕事に誇りを持っている。NTTデータのDNAであり、この気概をこれからも変わらず持ち続けていく」

 「変える勇気」と「変わらぬ信念」は、言葉としては一見矛盾するが、「変わらぬ信念」があるが故に「変える勇気」が成立するといえる。例えば、金融機関をまたいだ決済処理が生活で問題なく完了する、あるいは搭乗した飛行機がほぼ時刻通りに着陸する。日本では当たり前のこうした日常のシーンが、実はミッションクリティカルシステムが問題なく稼働していることで実現されている。

 AIなどの先端技術が脚光を集めるDXの領域とは反対に、メインフレームなど伝統的なミッションクリティカルシステムの領域は地味だが、「問題がほとんど表面化することがないシステムの裏側で何千人もの優秀な技術者たちが絶対に止めないシステムを作り、動かしている。その大規模なプロジェクトを円滑に推進するためにしっかりと段取りし、管理し、品質を確保することがNTTデータの強み」と木谷氏は話す。

 つまり、木谷氏が取り組んできた人材育成や組織づくりは、ミッションクリティカル領域で確立された強みを持ち続けながら、さらにDXを含めて変化もしていくというものになる。例えば、基幹系システム開発は今もウォーターフォール型のイメージが強いが、実際には「アジャイルやCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)を採用したり、AIでテストを自動化したりするなど、お客さまと一緒に開発効率を高める取り組みが進んでいる」という。

 DXの領域でもミッションクリティカル領域と同様に、社会貢献の観点から取り組むソリューション事例が増えている。例えば、インド・チェンナイではX線検査装置を搭載した自動車を農村や山村に派遣し、検査画像を同社が開発するAI技術で分析することにより、医療機関での診察が必要な住民のスクリーニング作業を支援する。

 医療分野のAI活用は、インドのほか米国や英国、日本で進む。「技術的に素晴らしいスタートアップも多いが、実際には技術導入だけでなく、医療のプロセスに組み込んでいくことが重要になる。われわれの場合は、病院内部の医療プロセスを分析し倫理面も考慮しながら導入すべき技術を見極めて支援している。結核など世界には死者が多い深刻な感染症がまだまだあり、被害を減らすために技術がどう貢献できるのかを考えている」(木谷氏)

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