人工知能(AI)は、人類をより賢くすると約束している。Raymond Kurzweil氏は、AIが人類の知能を超える時点、すなわち「シンギュラリティー(特異点)」は限定的ながら集中的に追求されるようになると予測した。AIはわれわれ人類をより賢くしてくれるのだろうか、それともわれわれは自らが御し得る限りの知能を既に手に入れているのだろうか?
反復性愚行症候群
われわれが抱える問題の中には認知能力に関するものもある。例を挙げると、指数関数的な働きを推定する能力の先天的な欠如だ。アリゾナ州知事を含む多くの米国の政治家が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の増加ペースの激しさ(厄介なことに指数関数的に広まる)を理解できなかったため、同州では感染者数と死者数が急増している。一方、COVID-19の封じ込めに成功している州や国家もある。
われわれが同じ失敗を何度も繰り返す理由は、人間の認知能力が抱える問題によって説明可能であり、これについては『The Logic of Failure』(失敗の論理)という書籍で詳しく語られている。
また、結論に飛びつく一方、分析はおっくうに感じるという問題もある。そして結論に飛びつく場合、ありふれた問題についてはおおむね正しい判断を下せるが、複雑な問題については足をすくわれるのだ。
偽の知能
これこそ、識者が思考を促すよりも、シンプルで短く、適切でない決めぜりふで感情に訴えかけようとする理由だ。
証拠を集め、データを分析し、因果関係を探り、仮説を立て、その妥当性を検証するというのは大変な作業だ。そのために、そういった作業を専門に実施する、高度な訓練を受けた人々が存在している。しかしそうした人々であっても間違いを犯すのだ。
文化伝達 VS. 進化的淘汰
『Why Aren't We Smarter Already: Evolutionary Trade-Offs and Cognitive Enhancements』(人はなぜ賢くなれないのか?:進化のトレードオフと認知能力の向上)と題された論文では、認知能力の向上をもたらす薬の可能性について2人の科学者が考察している。彼らは、進化がいかにわれわれの認知能力を形成したのかを考察する中で、2つの大きな問題を例として採り上げている。
1つ目の問題は、「逆U字型のパフォーマンス関数」として類型化できる。これは、最大限の効果を得ることが目標だが、それにかかるコストを最適化しなければならない問題でよく見かけるものだ。例えば、結婚したいと考えている場合に、いつ相手を探すのを止め、1人の人間に絞るのかというケースだ。
もう1つの問題は、人間の情報処理システム、すなわちわれわれの脳の限界に起因している。複数の機能をまたがるような依存関係は、それが自然のものであれ、人工のものであれ、あるいは薬によってもたらされるものであれ、認知能力向上の妨げとなり得る。