前回の原稿でも冒頭で少し触れたことではあるが、10月27日から29日までベルリンで開催された「TACIT FUTURE」(暗黙の未来)と題する国際会議に参加してきた。同会議はドイツのインターネットメディア「Berliner Gazette」が定期的に主催しているカンファレンスで、毎回、現在のデジタル社会に伏在するさまざまな問題群を先鋭的な観点から浮き彫りにするものである。
筆者は2014年9月27日からの3日間、「Berliner Gazette」と「札幌メディアアーツラボ」の共催で行われた「Slow Politics:危機の時代の力と創造性に関する国際会議」で、「創造都市はコモンズですか?」と題したワークショップのモデレーターを拝命したことがあり、今回もその縁でベルリンに招聘してもらった。
「TACIT FUTURE」は世界各国からアーティストや研究者、ハッカー、ジャーナリスト、編集者、政治活動家など50人を超える多彩な顔ぶれが集まり、3日間、濃密に討論がなされた。筆者が参加したのは「Industries of prediction and margins of freedom」(予測の産業と自由の余地)というタイトルのワークショップで、連日、午前中から夕方までは各グループで最終日の発表に向けて徹底的な議論、夕食後にはネット研究者であり評論家、音楽家でもあるKonrad Becker氏などのゲストを招いたパブリックトークといったプログラムとなっており、各参加者は与えられた課題に対して終日どっぷりと向き合う濃厚な時間を共有することになる。
10月27日から29日までの3日間、ドイツのベルリンで開催された国際会議「TACIT FUTURE」のウェブページ。各ワークショップの成果やゲストのインタビュー動画、パブリックトークのオーディオファイルなどが公開されている
ちなみに他のワークショップは「THE POLITICS OF BORDERS AND MONEY MOVES」(お金の移動と国境の政治学)、「TRACES OF MOVEMENT AND THE QUESTION OF RIGHTS」(移動の追跡と権利の問題)といった議題が設定されていて、いずれも本連載の主題である第2四半世紀に突入したインターネットの行方を暗示する非常に興味深いテーマとなっている。
第1回で紹介したフランスの哲学者Félix Guattariの「三つのエコロジー」を思い出していただきたいのだが、WWWの誕生から25年の時を経た現在、インターネットを基幹技術とするデジタル社会はすでに山や川、海、森と同じような自然環境=生態系となっており、Guattariの提唱する「環境のエコロジー」「社会のエコロジー」「精神のエコロジー」を三位一体として捉えていくことが未来を展望する際の必須のスタンスとなる。
今回の「TACIT FUTURE」における各ワークショップも、参加メンバーがなんとか新しい時代にふさわしい新しい尺度を見出そうと悪戦苦闘していた。3日間の成果は「Berliner Gazette」のウェブサイトに詳細に掲載されているので、読者も是非参照していただきたい。