パナソニック ライフソリューションズ社は9月17日、メディア向け説明会を開き、オフィスなどでの人の密集を避けることができる「密回避ソリューション」の提供を加速すると表明した。同ソリューションは、LPS(ローカルポジショニングシステム=屋内位置情報システム)や各種データを活用するほか、同社の監視カメラや統合セキュリティシステム「eX-SG」、スポットライト型プロジェクター「Space Player」、業務用ロボット掃除機「RULO Pro」などとの連動により混雑状況の可視化、注意喚起や空間誘導などを行う。

「密回避」ソリューションの概要
説明を行ったマーケティング本部 エンジニアリング事業統括部 テクニカルセンター 課長の豊澄幸太郎氏は、「『密閉』『密集』『密接』(3密)を回避してリスクを最小化する感染対策を実現するもの。新型コロナウイルスによる非常時だけでなく通常時にも使えるソリューションとして提供する。これによりお客さまや従業員といった人を守り、社会を守り、事業を守ることができ、3密回避の習慣化を支援する」とした。
ソリューションのポイントの1つは、LPSの活用になる。オフィス内や地下空間などGPS(全地球測位システム)衛星の電波が届かない場所でも位置情報を測定できる。天井に設置したセンサーと、Bluetoothで接続したタグビーコンやスマートフォンにより、社員一人ひとりの位置データを取得。オフィス内の人数を把握し、密集状態を確認したり密状態になったエリアにいる従業員にスマートフォンを通じて密集警報を出して分散を促したりといった使い方ができる。
「スマートフォン画面にオフィス内で密集している場所を表示し、その場所に行かないようにすることや、密集場所からの移動を提案することで、感染リスクを低減できるようになる。通常時も現在の時間帯に食堂が混んでいるかどうかといったことが分かり、混雑時を避けて食事をするといった用途にも活用できる。アプリケーションベンダーとの連携でソリューションを提供することになる」(豊澄氏)
屋内の位置データを活用した密集情報の活用において同社は、Tableauを使用して可視化する提案も行う。ここでは、出社率や座席の利用率、各エリアの利用率を視覚的に判断することができるようになる。豊澄氏は、「出勤率を50%以下にしたいといっても、実際にどれぐらいの出社率になっているのかが把握しにくい実態がある。位置情報を利用すれば出社率を把握でき、特定のフロアでの座席利用率が高い場合に、管理部門が特定エリアからの分散を促すことができる。さらに、過去のデータを分析して特定エリアの出社率が多い場合には、その対策を図ったりその対策成果を判断したりといった用途にも使える」とした。
2つ目は監視カメラシステムの利用だ。LPSの位置情報が従業員などを対象としているのに対して、エレベータホールや応接エリアなど、不特定多数の人が利用する場合での利用に適しているとする。「指定ラインを通過した人数を監視カメラの画像情報から計測し、ヒートマップとして可視化する。人の動線や滞在時間も可視化して、不特定多数の人を対象にしていても混雑状況などを確認できる」という。
3つ目は、オフィスへの入退出情報を基にしている点。同社では、入退出履歴を活用してビルやオフィス内の管理を可能にする統合セキュリティシステム「eX-SG」を製品化しており、ICカードや顔認証などによって従業員の入退出の状況を管理できる。このeX-SGに、LPSや監視カメラソリューションを組み合わせることで、従業員のオフィス内での動線や滞在場所、滞在時間などが確認できるようになる。

Tableauのダッシュボードを利用した可視化イメージ
「オフィスで新型コロナウイルスの感染者が発生した時に、感染者や濃厚接触者をトレースするなどの使い方ができる。Tableauのダッシュボードを利用してオフィスのどの場所にどのくらい滞在したのかなどが視覚的に分かり、濃厚接触者のリスト化もできる。一般的に感染者が発生すると、感染者に行動をヒアリングするなど濃厚接触者の特定作業に工数がかかるが、こうした課題も解決できる」(豊澄氏)
4つ目はSpace Playerを用いた注意喚起や空間誘導になる。Space Playerは、配線ダクトに設置するだけで映像を投映できるスポットライト型プロジェクター。主に店舗内の空間演出などに利用されている。この機能を使用して、店舗やオフィスの床面に映像を映し出し、その場にいる人へ一定距離を保つよう案内をしたり、壁面に投映して「マスク着用」や「対面を避けて」といったメッセージで注意を促したりできる。
「商業施設では、ソーシャルディスタンスを保つために貼り紙で注意を促すなどしているが、Space Playerでより効果的に表示でき、スマートに注意喚起できる。通常時はプロジェクションマッピングや情報配信にも利用できる」と豊澄氏。そして、業務用ロボット掃除機「RULO Pro」による省人化で密回避を行う提案も紹介した。RULO Proは、家庭向けロボット掃除機「RULO」をベースに業務向けに開発し、清掃作業を自動化して人員数の低減に貢献する。これにより人の接触を減らし3密を回避するという。豊澄氏は、「ロボットによる密回避の提案はこれから増えていくだろう」と述べた。
中小企業などの産業医を務めるOHサポート 代表の今井鉄平氏は、「オフィスの密回避で望ましいのは、2方向の窓を開けて換気を実施したり、2メートル以上の身体的距離を確保したりすることや、勤務中の全員のマスク着用の3点がある。だが、自席で密回避しても打ち合わせスペースで密が生じてしまうこともある。その他にも密状況が起きやすい環境には、特定の時間に人が集中しやすい更衣室や休憩室、マスクを外した会話が起こりやすい食堂や喫煙室などがあり、産業医としてこれらの場所の改善を指導することが多い。密状況の把握と密を作らない対策の実施が重要」と指摘した。

パナソニック ライフソリューションズ社 マーケティング本部エンジニアリング事業統括部テクニカルセンター 課長の豊澄幸太郎氏(左)とOHサポート 代表の今井鉄平氏
また、「万一オフィスで感染者が出た場合、企業は濃厚接触者の特定作業に関わる必要があり、感染者がいる部署の座席表、発症2日前から会議やランチなどを一緒にした従業員を確認するために、職場内の接触者記録の準備が必要となる。しかし対応者の手間が大きく記憶に頼るため情報の不正確さが課題になる。無償の接触確認アプリもあるが、連絡先や位置情報などの個人が特定される情報は記録せず、企業側が情報を把握できない。今回の密回避ソリューションは、従業員の行動をトレースでき、企業が情報を把握できる点で効果がある」とした。