組織がそれぞれデジタル変革に乗り出し、自らの業務プロセスのモダナイズやITインフラの最適化に取り組む中、クラウドコンピューティングサービスが自動化やオーケストレーション、データアナリティクスとともにより重要になっていくのは明らかだ。
こうしたトレンドは本格化しつつある。例を挙げると、F5 Networksが2月に公開した「2020 State of Application Services Report」(2020年版アプリケーションサービスの状況レポート)によると、2020年末までに自社のアプリケーションの過半数がクラウド上で稼働するようになると答えた回答者は3分の1近くにのぼっている。今なお続いている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、こうしたクラウド移行プロセスが加速されるのは間違いない。
しかし、F5のレポートに詳しく記されているように、企業のアプリケーションポートフォリオはたいていの場合、ウェブアプリやモバイルアプリにおける3階層アーキテクチャー(40%)や、クライアントサーバーアーキテクチャー(34%)、マイクロサービス/クラウドネイティブアーキテクチャー(15%)、従来型のメインフレーム/モノリシックアーキテクチャー(11%)といった主要なアーキテクチャーを含め、さまざまなものが混在している。これは、企業が利用しているアプリケーションの種類によってクラウド移行の詳細が(内部的にも外部的にも)大きく異なることを意味している。
これらの回答を掘り下げた結果、ほとんどの企業(76%)が従来型のアーキテクチャー(3階層やクライアントサーバー、モノリシック)と近代的なアーキテクチャー(モバイルやマイクロサービス)を組み合わせて用いている一方、21%は従来型のアーキテクチャーのみを使用しており、近代的なアーキテクチャーのみを使用しているのは3%にとどまっていることが明らかになったという。なお、18%は5つのアーキテクチャーすべてを使用しているとしており、11%は1種類のみを使用していると答えている。F5の調査は2019年に実施され、世界のさまざまな業界、企業規模の組織でさまざまな役割に就く2600人から回答を得ている。
提供:F5 Networks
「どのようにして自社のアプリケーションに最適なクラウドの形態を決定するのか」という質問で、最も多かった回答は「アプリケーションごとのケースバイケース」だった。その理由はアプリのポートフォリオがさまざまに混じり合っているところにある。こういった混在は、回答者の4分の3が複数のクラウドプロバイダーを利用していると答えている理由や、回答者の3分の1以上がレガシーアプリケーションをリファクタリングし、近代的な環境で動作できるようにすることがデジタル変革の最優先事項だと答えている理由ともなっている。
F5は、一般的な組織のポートフォリオにさまざまなアプリケーションアーキテクチャーが混在している結果、「長い目で見てマルチクラウドが一般的になっていくという事実が浮き彫りになっている」と記している。
筆者が2019年に執筆した記事では、複数の調査の結果を参考に、マルチクラウド環境を取り巻く問題を概説している。