デジタルを活用して組織を構築--分業できる体制、成功を再現できる仕組みが重要

鈴木淳一 (セールスフォース・ドットコム)

2020-12-25 07:15

 中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について取り上げる本連載も今回が最終回です。今回は、スタートアップにおける顧客関係管理システム(CRM)活用のための組織構築を取り上げます。スタートアップに限らず、中小企業全般に共通する考え方になりますので、ぜひ参考にしてください。

スタートアップがテクノロジー活用するための組織体制の構築

 筆者はいろいろなタイプのスタートアップを見てきました。エンジニアが強く営業が弱いタイプ、またその逆もあります。しかし、特定のスキルが偏っているスタートアップは、途中で成長曲線が止まってしまうケースがあります。

 エンジニア主導で製品力だけで伸びていくと、一定数は売れても成功するために超えるべき「キャズム(chasm)」を越える前に伸びが止まってしまうことがあります。逆もしかりで製品が弱くても営業力で売れますが、ある時を境に売り上げが伸びにくくなる、サブスクリプション型であれば解約が増えてしまう、といった行き詰まりにぶつかってしまうのです。

 一方で、エンジニア、マーケティング、インサイドセールス、営業、サポートのバランスがとれている企業で、第5回でも紹介した「プロダクトマーケットフィット(Product/Market Fit:PMF)」を実現するための部門間連携ができている企業は、急成長していく傾向があります。

 セールスフォース・ドットコム(セールスフォース)では、企業間取引の営業プロセスモデルとして「The Model(ザ・モデル)」の導入をお勧めしています。すでにご存知の方も多いと思いますので、ここでは詳細は割愛しますが、セールスフォースが長年の経験を通して得られた成功パターンをモデル化したものです。

 成功している多くのスタートアップは、手探りで進むよりも、すでに確立している方法論があればそれにのっとって効率化し、その分のエネルギーを顧客と向き合うことに注いでいます。例えば、人事、労務管理システムの「SmartHR」を提供するSmartHR(港区、従業員数260人)でも、The Modelにあわせて、インサイドセールスを早期に立ち上げ、マーケティング、営業の連携を強化しています。

The Modelの図(出典:セールスフォース) The Modelの図(出典:セールスフォース)
※クリックすると拡大画像が見られます

スタートアップが陥りやすい失敗

 スタートアップの創業期にはメンバーの業務範囲が曖昧になり、「なんでも屋」になってしまうことがあります。立ち上げ期に意見交換が盛んになる良い部分もありますが、生産性の低下は避けるべきです。

 筆者も前職のネット広告代理業では、営業、広告制作、広告入稿、サポートまで一人でやっていた時期がありました。マルチな業務経験を積めたのは個人的にはよかったのですが、効率は悪かったと思います。スタートアップこそ、専門性のある人材を採用し、初期から分業制に挑戦、その上で各部門責任範囲と協業体制をしっかり取るべきです。協業体制構築は工数がかかるように感じますが、そのほうがスピーディな成長が実現できる仕組みを構築できます。

 部門間の連携に関しては、マーケティング部門と営業部門の溝の話は、どちらかの業務を担当している人ならば一度は聞いたことがあるはずです。新しい組織のスタートアップには無縁の問題に感じるかもしれませんが、実はスタートアップでも「The Modelを目指して組織を作ったが、うまくいかない」という悩みを相談されることは少なくありません。

 多くの場合こうした悩みは、外部から各部門のプロフェッショナルを集めたものの、過去の経験や文化の違いから責任範囲の設定が困難、共通認識を持てないなどに端を発しています。結果、分業しているが部門間連携ができず、生産性が下がってしまいます。

 この対立を解消するためには、まず各部門の評価指標(KPI)を決めてそれを全社で共有すること、さらには部門間をつないだKPIを用意することです。同じ真実(データ)を見ることができれば、お互いの責任範囲や認識がズレることはありません。

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