rinna、AIチャットボット基盤を刷新--少量データで口調を学習

阿久津良和

2021-01-26 06:00

 rinnaは1月25日、AI(人工知能)キャラクター作成プラットフォーム「Rinna Charater Platform(RCP)」の刷新し、今春から提供すると発表した。少量データで口調を学習できるチャットエンジン「Style Transfer Chat」などを搭載している。

 同社は、マイクロソフトでAIチャットボットの研究・開発を行っていたメンバーがスピンアウトで創業した。従来のRCPはマイクロソフト時代に開発され、2016年から小売りや自治体、テレビ業界、ゲーム業界など9組織・約4000万ユーザーとの双方的なマーケティングに利用されてきた。

 新RCPは、Style Transfer Chatと企業のキャラクターが持つ独自性を処理するパイプラインを通じて、LINEやTwitter(提供時期未定)、企業のウェブサイトやアプリケーションなどに組み込むことができる。同社製品と他社製品を組み合わせたソリューション提案や製品開発を可能にする「RCPパートナープログラム」も併せて、電通とカヤックがパートナーに名を連ねる。

Rinna Character Platformの概要。APIを用意することで柔軟なチャネル対応と、メッセージ処理用パイプラインでAIキャラクターの個性付けを実現している
Rinna Character Platformの概要。APIを用意することで柔軟なチャネル対応と、メッセージ処理用パイプラインでAIキャラクターの個性付けを実現している

 日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役 社長の榊原彰氏は、AIの今後について「2025年が分岐点だろう。(製造業の)生産ラインや石油採掘など各業種・一般社会に自律システムの活用が広まる」と語る。また、行動によって遷移した状態に対する報酬が最大になる行動を選択するように学ぶ強化学習の適用について、「昨今は産業分野への応用が始まりつつある。スマートビルディングでは居住快適性と空気品質のバランスの確保、あるいはモーターやドリルの摩耗した刃先の調整、シェールガス採掘時の動作制御といったシナリオが想定される」という。

日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役 社長の榊原彰氏
日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役 社長の榊原彰氏

 強化学習を手掛けるデータサイエンティストは、技術を適用する現場業務などのドメイン知識を持たないため、産業領域に携わるプロの意見が欠かせない。このギャップを埋めるためMicrosoftは、2018年6月に買収した産業向け強化学習プラットフォーム「Bonsai」をAzureに実装した。「領域ごとの知識を小分けで与えられる。各動作を一つ一つの小さなゴールとして与えることで、学習効率を高められる」(榊原氏)という。

 他方で「りんな」(マイクロソフト時代のAIチャットボットの名称)が大きく関わってきた自然言語処理も日進月歩の取り組みが行われているという。最近は、人間と変わらないような文章生成にOpenAIのGPT-3が成功した。MicrosoftはOpenAIと提携し、GPT-3言語モデルの独占ライセンスを取得、その1つとして「T-NLG(Turing Natural Language Generating:チューリング自然言語生成)」を公表している。2020年2月発表時点で175億、現在は1兆を超えるパラメーターで構成されたモデルを用い、深層学習を最適化するPyTorch互換のDeepSpeedライブラリーと、使用メモリーを効率化するZeROを組み合わせ、初見文章の要約や高品質な独自文章の生成を実現した。

 いずれもマイクロソフト時代の成果物だが、ビジネス展開を容易にする新RCPについて、rinna Research Managerの沢田慶氏は、「旧来のマーケティングは一方通行で顧客反応を知ることは難しかった。(だが、RCPのような)雑談型AIの場合、双方向のマーケティングが容易で企業キャラクターなどを用いて雑談し、顧客の応答をデータとして蓄積できる。これを分析することで顧客需要に応じたアクションが可能になる」と説明する。今後はデータ分析のソリューション構築も視野に入れているという。

rinna Research Managerの沢田慶氏
rinna Research Managerの沢田慶氏

 従来の旧RCPは「りんな」のために構築され、その基盤上で企業需要に応じたデータを用意し、企業キャラクターを模したAIチャットボットを実現していた。新RCPは、Style Transfer Chatが生成した返答を、企業キャラクターの個性をデータとしてメッセージ処理し、コネクターを通じて各種チャネルに発信する。パイプライン処理を行うデータも約1万2000ペアが必要だった旧RCPに対し、新RCでPは200ペア程度で一定の水準をクリアできるという。また、企業ブランドの毀損(きそん)しないよう、ルールベースのフィルタリングやAIベースのフィルターによって文脈を考慮した不適な発言を検出する。フィルターを迅速に更新することで、AIチャットボットが不適切な発言をしないようにする。

 rinna 代表取締役社長のZhan Chen氏は、AIチャットボットについて、「言葉が個人を超え、文字が時間を超え、インターネットが場所・距離を超えた。われわれはAIキャラクターが『人の関係性を超える』と考えている」と話す。

rinna 代表取締役社長 Zhan Chen氏
rinna 代表取締役社長 Zhan Chen氏

 マイクロソフト時代から、システムを設計する組織は組織構造を反映させた設計を生み出す「Conway's law」という考えのもと、公平性、信頼性&安全性、包括性、プライバシー&セキュリティ、透明性、説明責任と「AI開発の6原則」を掲げている。また、2021年度は研究、開発、ビジネス各部門で積極的な人材採用を行い、年内に社員90人規模にまで拡大する計画も明かした。

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