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山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

半導体製造「弘芯」の巨大詐欺が中国で話題に

山谷剛史

2021-02-26 07:00

 中国・武漢で「弘芯」(武漢弘芯半導体:HSMC)という企業の巨大半導体工場の建設(弘芯プロジェクト)が停止となるニュースがあった。日本の一部メディアでは資金不足が原因と報じられたが、調べてみるとそうではなく、とんでもない話だったので紹介したい。一言でいえば、何の知識もない人の口八丁で巨大半導体工場の建設まで進んでしまったのである。

 複数の中国メディアが取材を重ねて分かったことはこうだ。弘芯を大きくした人物は、小卒で犯罪歴が多数ある曹氏と漢方薬を転売する李氏、それに途中から加わった龍氏の3人。李氏と曹氏は2017年12月に北京光量(北京光量藍図科技有限公司)を設立。資本金は李氏が9億8000万元(約150億円)、曹氏が8億2000万元(約140億円)。北京市でビジネスの中心地である朝陽区に50数平米となる登記住所があるが、そこは誰もおらず、役所も同社に連絡できなかった。その前の住所は朝陽区のごく一般的な集合住宅の一室だった。

 同じく2017年12月初めに問題の半導体企業「弘芯」が設立された。弘芯は資本金20億元で、うち北京光量が18億元としている。曹氏は犯罪歴があったので、怪しまれないよう縁のない遠方の都市を相手にうその熱弁を振るった。そして武漢政府を口説き落とし、うその資本で武漢のオフィスビルの25階にオフィスを構えた。半導体製造のニーズはあり、政府からの補助金と数億元の保証金をゼネコンからくすねるための“ハコ企業”が誕生した。

 ちょうど当時、中国の半導体産業ブームが起きていたときだ。2018年9月、弘芯プロジェクトがゼネコンの武漢火炬建設集団(武漢火炬)の下に建設されることになる。とはいえ弘芯は資本がないので、武漢火炬にけしかけて武漢市農業商業銀行に対して2億元を借り入れるよう依頼し、そして借り入れに成功した。毎月110万元の利息返済が必要だったが弘芯は当初一切も払わず、武漢火炬が代わりに支払った。弘芯が担保としているという武漢市農業融資担保は9回も弘芯を「失信人」、つまり踏み倒ししたとしている。それでも半導体製造工場プロジェクトは美味しいようだ。

 2018年に中国の半導体産業に米国から圧力がかかる。米国はオランダに対し、半導体製造に使われる装置を中国に輸出しないよう訴えたのだ。中国企業が半導体製造装置を買いたくても金があっても買えない状況だった。

 そうした背景を活用し、弘芯は2019年9月に台湾で“半導体の父”と呼ばれる蒋尚義氏を迎え入れる。同氏がいることで、米国からの圧力を無視してまでも半導体製造装置を1台導入することに成功した。

 弘芯はかねて「まずは14nmプロセス、その後7nmプロセスの工場を立ち上げ、月産生産数でも業界トップに」と大きな目標を掲げていたが、半導体製造装置が1台あったところで、中国の半導体産業を支えるほどの生産量には遠く及ばないのだが、弘芯は装置を調達した途端に未使用のままそれを武漢農村商業銀行に抵当として入れ、5億8000万元(約90億円)という高額の借金をすることに成功した。そして400人ものスタッフを雇った。蒋氏は猛烈に抗議をして李氏や曹氏と揉め、弘芯から去っていった。彼らは口先だけであまりに膨大な資金を調達したが、中国の競合他社を見ても数千人単位のスタッフを抱えているわけで、中国の業界トップになるにはあまりに非力だった。

 そしてプロジェクトは頓挫していく。工場建設への投資は減っていき建築は進まず、武漢のメーカー「武漢環宇」に起訴されて7530万元の土地使用権が差し押さえられ、工場建設は途中でストップした。後に中国メディアから「中国半導体業界で最大の詐欺事件」と評されるようになる。

 そうなった背景には、中国の各地方政府がハイテクのことをよく分かっておらず、ハコ企業やさまざまな企業が複雑に資本関係で絡まっていて調査が難しいことやハイテク産業を使って建築や不動産を活性化させたいという地方政府の思惑があると中国メディアは分析。

 調査会社のCBInsightsによれば、2020年上半期だけでも15省と29都市が半導体プロジェクトをスタートしている。これは前年よりもずっと多い件数だ。契約額ランキングでは、江蘇省、安徽省、浙江省、山東省が上位であり、半導体事業投資をこれまで重視し続けてきた上海は5位にとどまっている。弘芯ほど巨大な規模の詐欺はそうそうあるわけではないが、中国にお声がかかった日本人技術者もこうした金だけのプロジェクトに巻き込まれないよう注意されたい。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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