(本記事は、Cohesity Japanの寄稿です。)
企業のデジタル戦略を担う責任者とそのチームメンバーが2020年から学んだ教訓の1つは、不確実性がいまや唯一の確実性であるということです。
急速に変化する顧客の要求と超高速に進化するテクノロジーは、既に重大な課題を生み出していました。その後発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、企業にとってデジタルトランスフォーメーション(DX)の新しいフェーズへのきっかけとなり、企業は数年ではなく数日で新しい働き方を採用することを余儀なくされました。
この絶え間ない不確実性の新しい時代において、CIO(最高情報責任者)は、組織を横断してデジタルテクノロジーとデータを活用し、新しい機会を切り開いていく必要があります。また、CIOは経営層と協力し、ビジネスが直面している課題を克服するためにテクノロジーを活用していく必要があります。
Gartnerは、「この不確実性の時代とは、CIOが組織内に成長のマインドセットを浸透させなければならないことを意味し、成長のマインドセットはCIOがイノベーションとアジリティーを推進するために役立つ」と提起しています。成長のマインドセットの採用とは、CIOが継続的なDXへの旅の一環として、6つの主要なトレンドを受け入れなければならないことを意味しています。本稿では、それらを解き明かします。
1.人工知能と機械学習
ここ数年で広く知られるようになった人工知能(AI)と機械学習(ML)は、今後のDXの取り組みの中核を成すこととなります。IDCは、AIに対する世界の支出が今後4年間で倍増し、2020年の501億ドルから2024年には1100億ドル以上に拡大すると述べています。
企業はAIとMLを活用して、顧客サービスと従業員の効率化に取り組んでいくでしょう。IDCは、自動化されたカスタマーサービスエージェント、セールスプロセスの推奨と自動化、自動化された脅威インテリジェンスと防止、IT自動化など、AIにおける上位4つのユースケースが、AI支出全体のほぼ3分の1を占めると述べています。
2.アプリケーション戦略
運用するアプリケーションの制約を受ける企業・組織にとって、すぐにビジネスの方向性を変えることは非常に困難なタスクとなります。多くの場合、アプリケーションは実装された後、そのまま放置されます。これらのアプリケーションがもたらすビジネス価値は評価されず、総所有コスト(TCO)とサイバーセキュリティリスクにおける潜在的な支出は考慮されることはありません。
CIOは、エンドユーザーが必要とするツールを開発者が作成できるように支援する必要があります。大規模な開発プロジェクトを大きく前倒しして作成するのではなく、企業がアプリケーション開発に対して反復的なアプローチを採用できるようなアジャイルな文化を作る必要があります。
3.クラウドとインフラストラクチャーの戦略
Gartnerは、平均IT予算の25%が設備投資に費やされていることを示唆しています。CIOは、IT 支出の配分を最適化する必要があります。レガシーアプリケーションをクラウド上で再プラットフォーム化することは、コストのかかる提案のように思えるかもしれません。しかし、その代わりにあるものは、組織の迅速な方向性の変化を止めうる古臭いアプリケーションへの依存です。
同社によると、「CIOは、投資する資金は少なくなり、やるべきITタスクが増える中で、サービスとしてのインフラストラクチャーなど、デジタルビジネスを加速する分野に投資している」と述べています。柔軟性のあるクラウドとインフラストラクチャー戦略に投資を集中させることで、企業・組織はビジネス環境の変化に応じて、IT要件を柔軟に変更することができます。
4.サイバーセキュリティ、プライバシー情報保護、リスク
AIやMLのような新しいテクノロジーは、企業・組織が大規模なアジリティーを実現するのに役立ちます。しかしCIOは、適切な基盤が整っている場合にのみ、これらのテクノロジーを使用するべきです。これらの強固な基盤は、サイバーセキュリティの脅威に対する強力なアプローチのことを指しています。
ITリーダーは、企業・組織がバックアップやデータ管理などの重要な分野への投資を確実に行う必要があります。堅固なバックアップとデータ管理は、正確なリアルタイムデータを提供し、ランサムウェア対策を行い、テストや開発環境の高速化を実現します。これらの分野への投資によって、プライバシーの保護と、イノベーションのリスクを軽減することができます。
5.新興かつ“ディスラプティブ”なテクノロジー
予算が限られている中で、CIOが急速に台頭している概念に対して大きな賭けをするとは誰も考えていません。しかし、CIOが実行しなければならないことは、組織の運営と顧客とのかかわり方に影響を与える新興テクノロジーの可能性を認識することです。
ブロックチェーンから量子コンピューティング、ブレインコンピューターインターフェースに至るまで、CIOは、おそらく研究開発の環境でも、企業や組織の内部でこれらのテクノロジーをテストできる文化を作り出すべきです。コンセプトの実証研究を行うことで、IT リーダーは、これらのテクノロジーを新しいユースケースと照らし合わせてテストすることができます。
6.エンタープライズアーキテクチャーフレームワーク
企業・組織は、自社のITシステムや資産を作成、記述、変更するために標準化された方法論を持っている必要があります。そこで、エンタープライズアーキテクチャーフレームワークの出番です。これは、システムとサービスがどのようにIT導入へのアプローチの一部を形成するかについて、長期的な視点を持っていることを確認するための方法です。
クラウドや新しいテクノロジーの使用が増える中で、オープンでありながらもセキュアな方法で新しいテクノロジーをビジネスに活用できるフレームワークを作成することをCIOにお勧めします。成長のマインドセットを採用したいCIOには、企業をリスクにさらすことなく、イノベーションを受け入れることを確実にすることが求められます。
まとめ
CIOに対する明確なメッセージは、安定性のための最適化だけではもはや不十分ということです。変化のスピードは今後も加速していきます。不確実性の時代に競争力を獲得できるかどうかは、企業・組織が “ディスラプティブな” イノベーションを受け入れることができるかどうかにかかっています。今こそが、自分のビジネスのために、成長のマインドセットを模索する時です。
- 岩上 純一(いわかみ じゅんいち)
- Cohesity Japan 代表取締役社長
- ネットアップの代表執行役員社長やSAPジャパンの製造業担当バイスプレジデント、日本IBMの製品部門の事業部長などの要職を歴任し、テクノロジー業界で30年以上の経験を持つ。ビジネス課題の解決と業績向上のためにテクノロジーを活用するさまざまな顧客企業やパートナーと親密な関係を構築。これまで培ってきた幅広いITインフラの経験と市場に関する知識を活かして、国内企業がデータからより多くの価値を引き出せるようにし、データの保護、安全、規制準拠を確実にすることを支援している。