アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)が企業システムのクラウド移行を支援する施策を強化した。パッケージと称しているが、内容はコンサルティングのようにも見て取れる。AWSがコンサルティング事業に乗り出したのならば、クラウド市場での影響は小さくない。
AWSがコンサルティング事業に乗り出すと見る理由とは
AWSジャパンが先頃発表したのは、企業システムをクラウドに移行する中で計画立案の段階を支援する「AWS ITトランスフォーメーションパッケージ」(ITXパッケージ)と呼ぶ新サービスである。
同社はこれまで、クラウド移行支援プログラム「AWS Migration Acceleration Program」(MAP)を提供してきたが、新サービスによって計画立案の段階をスムーズに進めるようにして、MAPの取り組みを広げていこうというのが狙いだ(図1)。
図1:AWS ITトランスフォーメーションパッケージ(ITXパッケージ)の概要(出典:AWSジャパン)
オンラインでの発表会見の内容については関連記事をご覧いただくとして、今回のクラウド移行支援に関する説明を聞いて筆者が感じたのは、内容としてはコンサルティングと見て取れるのではないかということだ。AWSがコンサルティング事業に乗り出したのならば、同社の事業スタイル、さらにはクラウド市場にとっても影響は小さくない。
まず、AWSの事業スタイルとしては、これまで企業システムをクラウドに移行する際の支援におけるコンサルティングは、コンサルティングファームやシステムインテグレーター(SIer)などのパートナー企業に委ねてきた。しかし、AWS自体が顧客に対してダイレクトにコンサルティング事業を手掛けるとなると、パートナー企業とバッティングするケースが出てくるのは想像に難くない。
また、AWSがコンサルティング事業を始めれば、ハイパースケールのパブリッククラウドサービスで競合するMicrosoftやGoogleも資金力があるだけに、真っ向から対抗するだろう。日本で言えば、AWSジャパン、日本マイクロソフト、グーグルによる三つ巴の戦いである。ただ、3社とも日本市場ではパートナー企業との連携をビジネスの柱に据えているため、自らコンサルティング事業を展開すれば、現在のパートナーエコシステムのバランスが崩れる可能性がある。
そうした背景はあるものの、遠からずAWSをはじめとした3社はクラウド移行支援に向けたコンサルティング事業を展開することになるというのが、筆者の見立てだ。
なぜかといえば、新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが広がったことなどから、クラウドサービスの利用も増えたものの、複数の市場関係者の話によると現在のクラウド普及率はまだ3割程度で、企業システムのクラウド移行についてはまさしく「これから大きな山が動く」状況だからだ。
従って、これから始まる激しい顧客争奪競争に向け、「3社は自らのブランド力を前面に出して、商談の最も川上に当たるコンサルティングに力を入れてくる」と予想する。おそらくパートナーエコシステムもその流れに沿ってバランスが変わっていくことになるだろう。