LIXILは、SAP S/4HANAによるグループERP(統合基幹業務システム)をGoogle Cloud上へ移行させるとともに、これと連携する「Lixil Data Platform」と呼ぶデータ基盤を整備した。同社とグーグル・クラウド・ジャパンが取り組みの経緯などを説明した。
インフラはSAP S/4HANAとGoogle Cloud
150カ国以上で事業展開するLIXILグループは、住宅設備機器・建材メーカー5社が合併して2011年に発足、国際会計基準(IFRS)を導入し、ERPはメインフレームで運用してきた。今回はERPをSAP S/4HANAに刷新するとともに、その稼働基盤にパブリッククラウドのIaaSを採用する。
LIXIL 常務役員 Digital部門システム開発運用統括部リーダー兼コーポレート&共通基盤デジタル推進部リーダーの岩﨑磨氏
LIXIL 常務役員 Digital部門システム開発運用統括部リーダー兼コーポレート&共通基盤デジタル推進部リーダーの岩﨑磨氏は、「3つのシステムをメインフレームで運用してきたが、経営環境が目まぐるしく変化する中で、20~30年前のテクノロジーでその変化に対応していくのは難しいと考え、クラウド主体のシステムに移行することを決めた」と話す。
従前のITインフラはプライベートクラウドだった。プライベートクラウドは、ITインフラの物理的なコンピューティングリソースを仮想化集約することによる効率性向上のメリットを得られるが、岩﨑氏はリソースの柔軟な拡張などが難しかったとする。ハードウェアなどの追加投資の負担が懸念されたようだ。また、災害復旧(DR)システムの場所や環境などを自前で整備することが重荷であり、デジタルトランスフォーメーション(DX)にまつわるグループでのIT推進にも限られた人員を割かないといけない。
ITインフラ選定での検討ポイント
岩﨑氏によれば、これらの課題や懸念が将来にも影響を及ぼしかねないことから、ERPの稼働基盤にIaaSを採用した。複数のクラウド事業者で概念実証(PoC)を行い、IaaSプロバイダーにGoogle Cloudを選定した。事業者間で大きな差異は感じなかったものの、Google Cloudはネットワークの設計や構築など自由度が他よりも高い点などが決め手だったという。
「インスタンス性能などの差は、だいたい短期間で解消されるのでさほど問題ではない。むしろ、DR先が国内か、海外か、マルチリージョンかなど方針や設計、変更など固まっていない場合はネットワークの自由度が重要になり、その点でGoogle Cloudはネットワークがフラットで他よりも優位性があった」(岩﨑氏)
Google Cloud上での環境設計などは、グーグル・クラウド・ジャパンのサポートを利用しながらLIXILの内製化チーム中心で行い、構築作業などは外部リソースを活用して短期化を図った。内製をメインにしたのは、「当社のような規模で外部任せにすると、膨大な費用の割に欲しいものが出てこない。環境の変化へ対応する度にもコストがかかる。そのため、どのような変化にも柔軟に対応しやすいエンタープライズアーキテクチャーを採用し、内部リソースで対応できるようにしている」(岩﨑氏)とのことだ。
Google CloudとS/4HANAのシステムは、2020年11月に会計系システムが構築を終え、2021年4月に本番稼働を開始した。これまでに3つのSAPシステムを移行させた。現在も120近い周辺システムなどを順次Google Cloudへ移行させている段階にある。
データ基盤「Lixil Data Platform」の構築
LIVILは、データ駆動型のビジネス展開にも注力しており(関連記事)、今回の基幹系システムの刷新と合わせて、Google CloudのBigQueryを利用する同社独自のデータ基盤「Lixil Data Platform」も整備した。基幹系との今回の連携により、以前はほぼ1日を要した数億件のクエリー処理が10秒程度に大幅短縮されたという。
岩﨑氏によれば、Lixil Data Platformでは、「System of Record」などと呼ばれる基幹業務系のデータと、「System of Engagement」と呼ばれるマーケティングや顧客関連などのデータを一元的に蓄積する。Lixil Data Platformが収益向上のためのインサイト(洞察)を提供する基盤と位置付け、グループのあらゆる人材がセルフサービスも含めて分析などのデータ活用ができるようにしていく。シナリオや機械学習などのテクノロジー、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどを取りそろえたシングルデータプラットフォームをコンセプトにしている。
Lixil Data Platformの概念イメージ
「以前は、事業側の依頼を受けてIT側が対応していたが、IT側のリソースの制約もあり、請負型のままでは限界があると感じた。事業側がやりたいことのほとんどを彼らで完結できるようセキュリティを担保しつつ、ノーコード/ローコードツールを使ってスプレッドシートで簡単に分析作業などをできるようにしたり、Lookerやハイスキルな人なら直接BigQueryを触れるようにしたりしている」(岩﨑氏)
Lixil Data Platformの活用により、グループ社員が自ら意思決定を行い、ビジネスを成長させていけるように変革させるのが目標だ。
岩﨑氏は、LIXILグループの企業文化を変革する観点からも「Googleの自由でオープンなカルチャーを参考にしている」と話す。企業統合で生まれたグループとしての多様性を持ちながら自由・オープンという特性が融合することで、グローバルで変化へ柔軟に対応していけるようなLIKILグループとしての企業文化の醸成を期待しているそうだ。
今回の基幹系システムの移行とクラウド化の本質的な狙いは、業務プロセスの改革にあるといい、企業統合に伴う変革の大きな挑戦にもなっている。「システム基盤を変えることで効果もあるが、そもそも変えることがプロセスを最適化させるという価値になると考えている」(岩﨑氏)