LIXILに聞く、顧客や従業員の体験データから満足につながる理由を探る術

國谷武史 (編集部)

2020-07-08 06:30

 住宅設備機器・建材メーカーのLIXILグループは、顧客や従業員の「体験」データを活用していく取り組みの一貫として、クアルトリクスのエクスペリエンス(体験)データプラットフォーム「Qualtrics Experience Management Platform」を採用した。その狙いや利用状況などについて同社執行役専務 マーケティング・デジタル・IT担当 兼 Chief Digital Officerの金澤祐悟氏に話を聞いた。

LIXILグループ 執行役専務 マーケティング・デジタル・IT担当 兼 Chief Digital Officerの金澤祐悟氏
LIXILグループ 執行役専務 マーケティング・デジタル・IT担当 兼 Chief Digital Officerの金澤祐悟氏

NPSにつながる要因を知る

 金澤氏によれば、顧客や従業員の「体験」データを活用する最大の目的は、NPS(ネットプロモータースコア:顧客の継続利用の意向を把握するための指標)の向上にある。顧客や従業員がさまざまなシーンにおいて、どのようなことで満足や不満などを感じるのか――そうしたデータを常に把握、分析し、NPSを高めるための施策を打ち、その結果を把握してさらに改善を重ねる。それもスピード感を伴って実践していくためだという。

 LIXILグループは世界150カ国以上で事業展開し、製品は10億人以上が利用するという。従業員規模は約7万5000人となる。以前から社内コミュニケーションの活性化や顧客接点の強化を図るためにデジタルツールを活用していた。ただ、上述の観点でより高頻度に行える方法を探していたといい、2019年のSAPの年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW」で知ったというクアルトリクスの採用を決めた。SAPは同年にクアルトリクスを買収している。

 一見すると、顧客と従業員の体験データは異なるものに映る。だが金澤氏は、従業員と会社がより良い関係性を構築し従業員がより良く活躍できるようにすること、また、顧客が従業員などとのさまざまなコミュニケーションを通じて満足度を高めていくことが総合的にNPSへ結び付いていくと指摘する。そのため従業員の体験データを収集・分析する「Qualtrics EmployeeXM」と従業員の体験データを収集・分析する「Qualtrics CustomerXM」を利用し、それぞれのデータをQualtrics Experience Management Platformで一括管理する仕組みを構築した。

従業員の満足度向上にどう生かす

 従業員の体験データについては、外部に委託する形で約2年おきにグローバルでの従業員意識調査を継続的に実施して把握してきたという。ただ、スピード感のある経営を推進していく上で、2年おきに実施する調査では会社や仕事に対する従業員の意識をタイムリーにつかむことが難しく、大きな課題だった。

 「以前から人事を担当するJin(取締役 専務役員 Chief People OfficerのJin Montesano氏)やデジタル変革のチームの中でも従業員の満足度が大切だと話し合っていた。経営体制の問題から従業員の満足度が低下したことが調査で分かり、改善に向けて試行錯誤をしていたところ、新型コロナウイルスの危機も加わり、従業員を支える施策を早急に展開し確認して改善していく必要があった」(金澤氏)

 コロナ対応では、危機の世界的な拡大が懸念され出した2020年1月時点で、全社規模の在宅勤務を想定した準備をIT部門で先行していたという。

 「まずIT部門で起こり得る課題の把握に努め、例えばVPN接続リソースの確保やゼロトラストネットワーク化に向けた準備、コミュニケーションツールの整備などのほか、在宅勤務に関わる費用の支給といったできることを先行して進めた。4月にEmployeeXMでアンケートした結果、従業員の満足度が10ポイント以上改善し、各種施策の効果をすぐに確認できた」(金澤氏)

 設問の設定から調査票の配布および進捗(ちょく)管理、結果分析まで一連のプロセスが自社で完結するようになり、調査の自由度が高まり、作業期間も以前の約3カ月から約2週間に短縮され、業務効率が大幅に改善されたという。金澤氏は、やはり2年ごとの調査では不十分であり、「すぐに調査して確認し施策を打てる機動力を得られた」と話す。

顧客の満足を解き明かす

 また、“顧客体験”については、マーケティング部門が成熟市場で競争力を向上させるために、エンドユーザー視点で差別化した商品、サービス、ビジネスモデルを構築する戦略を推進している。今回の取り組みでは、全国92カ所のショールームを対象にCustomerXMを導入し、来訪した顧客にアンケートを行って満足度をデータで可視化している。

 金澤氏によれば、NPSを高める上でどのような施策が最も効果的であるかを予見するのは非常に難しい。「顧客が満足したり不満に感じたりする理由がスタッフの接客態度なのか、待ち時間なのか、それとも飲料の味なのか、さまざまな要素が複雑に関係していて、満足度を高めるアクションをしてみないと分からない。今回のツールでは多変量解析できる点が大きく、各種要素の因果関係を分解しながら検討できる」という。

 コロナ禍によってショールームは閉鎖せざえるを得ず、同社ではすぐにオンライン商談の体制を構築したという。顧客はもとより顧客の相談に応じるコーディネーターも自宅からウェブ会議サービスのZoomを使ってオンラインで接客している。金澤氏によるとコロナ禍以前からデジタルツールの導入を進めていたといい、例えば、住宅リフォームならデザインや色が異なる商品の違いシミュレーション画面で再現して比較検討したり、瞬時に見積り金額を算出したりできるようにしている。

 こうした中で顧客に満足度をアンケートしたところ、事前により多くの情報があればコーディネーターに相談しやすいなどの意見が寄せられた。「つまり、コンテンツがNPSの向上につながる要因の1つである可能性が高いと分かる。今後は、例えば長い時間をかけて検討される住宅リフォームなら、どのような顧客接点やタイミングにボトルネックがあるのか探り、カスタマージャーニーの中で良好な関係性を維持していくための行動につなげていく」と金澤氏は話す。

 コーディネーターは約1000人で、接客に対する顧客の意見はモチベーションにもつながってくる。従業員の体験データも生かして、例えば、ショールームに託児所を整備するなど働きやすい環境を作り、コーディネーターがより活躍できれば、その結果がNPSに反映され、LIXILの“ファン”が増えていく――金澤氏は体験データの活用にこうした効果を期待する。

 「当然ながら商品開発にも役立てていく。国内市場は少子高齢化が進んでいるため、LIXILの表品やサービスを支持してくれる“ファン”を増やしていく」と語る。

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