会計ソフト6社、年末調整のデジタル化で提言--確定申告より複雑、行政が主導を

TechRepublic Japan Staff

2021-06-04 06:30

 弥生やSAPジャパンなど会計ソフト6社で構成する社会的システム・デジタル化研究会(Born Digital研究会、代表:岡本浩一郎氏=弥生代表取締役社長)は6月3日、「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」を発表した。

 同研究会は、社会的システムのデジタル化(Digitalization)を通じ、社会全体の効率を抜本的に向上させ、社会的コストの最小化を図ることを目指し、2019年12月に発足。2020年6月には「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」を発表し、「中長期的には、確定申告制度、年末調整制度、社会保険の各種制度などについて業務プロセスを根底から見直すデジタル化を進めるべき」と提言した。今回の提言はそこから「新しい年末調整のあり方」についてまとめた。

 今回の提言での新たな年末調整の基本的な考え方は(1)「発生源でのデジタル化」、(2)「“原始データ”のリアルタイムでの収集」、(3)「一貫したデジタルデータとしての取り扱い」、(4)「必要に応じた処理の主体の見直し」、(5)「確定した事実ベース」――の5つ。

 加えて「従業員の扶養情報などの情報」「月次の給与支払いや源泉徴収の実績」「各種控除証明データ」を発生源からデジタルデータでリアルタイムに収集し、翌年1月以降に“年税額・精算額”を算出することを提言している。

 ここで言う原始データとは、各所で発生した、編集や計算など処理する前のデータ。年末調整は1年間に納めるべき所得税額である“年税額”を算出し、その金額と給与などで源泉徴収された所得税の合計額との差額である“精算額”を算出し、過不足を精算する仕組み。

 同研究会は、紙の電子化にとどまらずデジタル化で業務のあり方を見直すことで効率が抜本的に向上した年末調整業務が実現されることを目指すと解説。同日、デジタル改革担当大臣の平井卓也氏に同研究会代表である岡本浩一郎氏などがオンラインミーティングで提言書を提出し、意見を交換した。

 新しい年末調整の実現では、変更に要する工数や時間軸で難易度が異なるものが混在していると説明。そこで提言では、段階的に実現していくアプローチが望ましいと考え、第1ステップは2023年頃、第2ステップは2026年頃での実現を目指す。

 年末調整制度は主に行政の仕組みであるため、新たな制度の実現に向けては、行政による主導が必要と説明。一方、民間事業者からも一定の関与と強力な後押しが不可欠と考え、同研究会は引き続き、提言内容の実現に向けて積極的に活動していくとしている。

 年末調整制度をはじめとする、日本の現在の社会的システムの多くは、戦後に紙での処理を前提として構築されたものであり、令和時代でも、その基本的な成り立ちは変わっていないと指摘されている。

 年末調整は本来、確定申告の簡易版と位置付けられているが、近年、税制の複雑化とともに、確定申告と比べて処理が複雑になってきている。電子化の範囲は広がっているものの、年末調整は紙を前提とした当初の業務から本質的には変わっていないと同研究会は指摘している。

 事業者の税制に関する知識や理解が十分と言えない状況も生じており、全国の膨大な数の事業者が一般的に業務繁忙とされる年末時期に、多くの時間を費やして年末調整業務を進めている。行政が年末調整業務の正確性を検証することは、事業者と行政の両者で二度手間となり、結果として、社会的に多大なコストを要していると分析している。

 こういった課題に対処するものとして、年末調整業務のデジタルトランスフォーメーションを図ることを目的に提言をまとめたと解説している。

 Born Digital研究会は弥生やSAPジャパンのほかオービックビジネスコンサルタント、ピー・シー・エー、ミロク情報サービス、Works Human Intelligenceが参加。オブザーバーとして日本税理士連合会、東京税理士会 情報システム部、内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室が参加している。

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