IBMとSAPが金融向けクラウドサービス事業で提携強化した背景とは

松岡功

2021-08-12 11:28

 IBMとSAPによる金融向けクラウドサービス事業での提携強化は、どのような意図や背景があるのか。筆者なりに探ってみたい。

IBMの金融向けクラウド上でSAPソリューションを利用可能に

 IBMとSAPが米国時間7月28日、金融向けクラウドサービス事業での提携強化を発表した。IBMの金融向けクラウドサービス「IBM Cloud for Financial Services」において、SAPのERP(統合基幹業務システム)「S/4HANA」をはじめとするソリューションを利用できるようにし、金融分野におけるクラウドサービスの活用を促進していきたい考えだ。

 ただ、ひと昔前ならば、こうしたビッグネーム同士の提携は大きな話題になったが、オープンな利用環境が定着した今ではどのベンダーもビジネスエコシステムを広げようとしており、もはやベンダー同士の組み合わせ自体に新味はない。とはいえ、こうした動きには必ず両社の意図やそうなった背景がある。本稿ではその点を筆者なりに探ってみたい。

 両社の具体的な提携強化内容については第一報をご覧いただくとして、ここでは両社の事業責任者が発表に寄せたコメントの要点を記しておこう。

 「私たちのビジネスエコシステムにSAPが加わることで、金融分野のクラウドサービス化を一段と加速することができるだろう。金融機関がIBM Cloud for Financial Services上のSAPソリューションによってモダナイゼーションを成し遂げ、クラウドサービスを大いに活用できるよう支援していきたい」(IBM インダストリークラウド事業ゼネラルマネージャーのJoel Spieth氏)

 「金融サービスに代表される規制産業がクラウドへ移行することで、業務および技術の上でも新たな課題に取り組むことが必要になる。IBMのクラウドサービスとSAPのソリューションの組み合わせは、世界中の金融機関がデジタル化への道のりを加速させ、世界規模でビジネスを拡大するのに役立つだろう」(SAP 金融サービス事業責任者のBob Cummings氏)

 こうした発表の場合、リリースの説明文より、経営トップや事業責任者が寄せたコメントのほうが、発表内容の核心部分を的確に捉えていることが少なくない。

 今回の動きの背景を探ってみると、IBMは2019年に金融向けのIBM Cloud for Financial Servicesを商品化し、「パブリッククラウドサービス」の業種別展開に乗り出した。パブリッククラウドといえば、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Google Cloudが提供するハイパースケールなサービスが思い浮かぶが、IBMはこれらの競合と真っ向から対抗するのではなく、これまで長年のシステムビジネスで多くの顧客を獲得してきたノウハウを生かして、業種ごとに必要な要件を盛り込んだ「インダストリークラウド」(以下、業種別クラウド)の展開に注力している(図1)。

図1:金融向けパブリッククラウドの概要(出典:日本IBM)
図1:金融向けパブリッククラウドの概要(出典:日本IBM)

 とりわけ、金融はIBMが最も実績を上げてきた分野であることから、まずはこの分野の既存顧客をIBM Cloud for Financial Servicesへ導こうとしている。そこにERPをはじめとした業務アプリケーションで確固たる実績を持つSAPも協業する形になったのが、今回の提携強化である。

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