医療分野で進むデジタル化--電子カルテとMicrosoft Teamsの連携拡大など

阿久津良和

2021-10-01 06:30

 日本マイクロソフトは9月30日、ヘルスケア分野の取り組みについて説明会を開き、富士通の電子カルテシステム「HOPE LifeMark-HX」でMicrosoft Teamsの連携機能が新たにサポートされるなどの動向を紹介した。

 説明会では業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏が、「カルテの電子化が20年ほど前に始まり、電子カルテが普及するも共有までは考慮されていなかった。日本に限らないが、電子カルテシステムはオンプレミスで導入され、(ソリューション同士の)互換性が欠落している部分もある。さまざまな要因でクラウドシフトが進みにくい」と、電子カルテにまつわる情報共有の課題などを指摘した。

日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏
日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏

 同社が説明会で引用したMcKinseyやDeloitte Tohmatsuの調査結果によれば、医療機関のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速しているという。国内のオンライン診療の認知率は44%、海外の問診などによる非構造化データは90%以上、生産性向上の余地も70%以上といった状況で、診療などにおける個人情報の保護に必要なセキュリティ対策費は6200億円に及ぶとした。

 マイクロソフトは、2020年に「Microsoft Cloud for Healthcare」を発表した。AzureやDynamics 365、Power Platform、Microsoft 365などの機能を活用したクラウドソリューションで、大山氏は「患者の治療支援や医療従事者の生産性向上を目的に、パートナーとともにソリューションを開発していく。また、データをクラウドで預かるが、収益化にしない」と、ヘルスケア分野における同社の立場を強調した。

Microsoft Cloud for Healthcareの概要
Microsoft Cloud for Healthcareの概要

 パートナーとの連携事例には、海外の電子カルテソリューションを提供するEpicを挙げた。Microsoft Cloud for Healthcareにある「Microsoft Teams EHR(電子健康記録)コネクター」を利用して電子カルテ連携を実現。EpicのシステムとMicrosoft Teamsを一体化させることで、患者が診療予約システムから病院検索やオンライン診療の予約を行い、医療従事者が電子カルテデータと連携する形でオンライン診療を実施しているという。

 同様の取り組みは国内でも始まっており、2月からインテグリティ・ヘルスケアのオンライン診療「YaDoc Quick」とMicrosoft Teamsが連携している。患者の診療予約時間を迎えた医療従事者が、カレンダーから患者を選択してビデオ通話を開始するとMicrosoft Teamsが起動し、オンライン診療を実施できるというものだ。

 新たに連携する富士通のHOPE LifeMark-HXとMicrosoft Teamsは、「医療従事者のオンライン業務化を目指したもの」(大山氏)というソリューション。医療従事者のリモートワークを実現するため、カルテ利用状況のデータ化や、医療従事者同士や病院間のオンライン会議、新型コロナウイルス感染症の患者に対応するための隔離区域とのコミュニケーションが可能とする。富士通の閉域ネットワークと接続、Microsoftの各種クラウドサービスと接続する「Azure Peering Service」を用いる。

HOPE LifeMark-HXとMicrosoft Teamsの連携
HOPE LifeMark-HXとMicrosoft Teamsの連携

 大山氏は、今後の展望として、AI(人工知能)を用いた音声データの構造化にも取り組んでいることを明らかにした。マイクロソフトは、4月にNuance Communicationsの買収を表明し、同社のAI技術を使用してMicrosoft Teamsを通じたオンライン診療での問診の音声を構造化、有益な情報を自動的に電子カルテへ転記する。

 この状態では下書き段階といい、医療従事者が内容を確認することで、文章作成に要する時間を大幅に削減するものになる。実現時期などの見通しは不明だが、「実現可能であることは開発陣も認識している」(大山氏)とのこと。なお、マイクロソフトは国内における医療AIの技術基盤を整備する目的で、4月に設立された「医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)」に6月に加入したという。

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