デジタル化の加速、人々の行動様式の変容といったVUCAな時代のなかで、過去の成功体験に囚われがちな日本企業に必要なのが、変革を恐れずにイノベーションを進めていく社内カルチャーを醸成することである。ZDNet Japanが2021年12月10日に開催したオンラインイベント「ZDNet Japan Summit 2021 Digital Enterprise Now & Future 変革するビジネスとテクノロジーの真実」において、コニカミノルタ 常務執行役の市村雄二氏が、自らが取り組んでいる「イノベーション志向経営」の実践例とその成果を紹介した。
コニカミノルタは、2003年に歴史のある製造業同士が経営統合して誕生した。2006年にそれぞれの祖業である写真フィルム、カメラ事業から撤退してグローバルで約3000億円規模の売り上げを失ったが、その後経営体制を変革して事業再編を進め、今ではデジタルワークプレイスやヘルスケアなどの領域においてグローバルで1兆円規模の事業を展開するに至っている。その背景に存在するのが、イノベーションの積み重ねである。
コニカミノルタ流の価値創造プロセス
成長をけん引する仕組みとして、「コニカミノルタ流の価値創造プロセス」がある。まず2030年に同社がありたいと考えるビジョンを描き、そこからバックキャスティングする形で同社ならではのさまざまな無形資産や、現在の事業をどう進めるかを考えていく。 「社会課題があり、そこに成長する大きな市場がある。その上でコニカミノルタの差別化シナリオがあり、われわれが現在の事業をどういう方向で持ち上げていくかを考える。その中で利益を上げていき、そのキャッシュフローで再投資し、経済的な価値循環も生んでいくというシナリオになる」(市村氏) 一方でコニカミノルタでは、変革の過程で“企業DNA”として何が大事なのかを議論し、「人々の“みたい”に応えてきた」(市村氏)という答えが導き出されたという。その結果、人にとって大切な“みたい”(見たい、観たいなど)に応えるDNAを大事にして、デジタルカンパニーとしての事業展開を進めるに至っている。
イノベーションを牽引するBICを世界に配置
コニカミノルタではイノベーションをどう捉えているのか。同社がイノベーションを生み出すために、一方で「人財力の強化」を行いつつ、他方で同社特有の「イノベーションの仕組み」を用意している。社員全員にデザイン思考を教育し、自前主義に陥りがちな製造業の研究開発をオープン化。さらに、ユニークなものが「ビジネスイノベーションセンター(BIC)」の活動だ。2014年から世界5極(北米/欧州/アジア太平洋/中国/日本)で活動を展開している。
BICの特徴はまず、自社のビジネスをイノベーションするのではなく、顧客のビジネスをイノベーションすることを考えるセンターとして活動していると定義していることである。「市場の中でお客さまに密着した形で、新しい商材・サービスを開発することを目的としているが、もう一つの重要な目的が、新たな企業文化の醸成、人財の育成にある」と市村氏は話す。 多くの企業では、研究開発や自社技術に基づいてさまざまな製品やサービスを開発している。MOT(Management of Technology:技術経営)的にいうと、中央研究所での研究や事業の研究開発の過程を経て事業開発が進む形となる。これに対しBICでは逆の動きを取り、まず顧客価値と社会課題を定義し、そこをスタート地点として、そのために技術を“寄せ集めて”新規事業開発を進めていくというアプローチになる。これによってコニカミノルタでは、自前主義や自分たちが得意な技術に頼った事業開発に陥らないようにしている。