CIOがこれから果たすべき役割は何か。こんなテーマの調査レポートを、IBMが先頃発表した。本稿ではその内容から筆者が特に注目したところをピックアップして考察したい。
IBMの調査レポートに見る「CIOがこれから果たすべき役割」
IBMが発表したのは「経営層スタディ・シリーズ:CIOスタディ2021」。最高情報責任者(CIO)としての意識や知見、活動実態などについて、世界45カ国・地域、29業界の企業のCIOを中心とした経営層(CxO)5000人を対象に実施した調査レポートで、日本IBMがこのほど日本語版を公開した。
日本語版でA4判PDF46ページからなるレポートから、筆者が特に注目したメッセージと2つのグラフを取り上げたい。
まず、レポートの所々に記されているCxOのメッセージから、以下の4つを紹介しておこう。
「ビジネスがテクノロジーをリードするという考え方は、もはや時代遅れとなった。ビジネス戦略とテクノロジー戦略は相互補完的であるべきだ。大切なのは顧客を第一に考え、デジタルを有効に活用するという共通の目的を持つことである」
(Sun Life Financial CIOのLaura Money氏)
「旧来、IT部門はシステムを中心に、会社全体を俯瞰的に捉えられる組織であり、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の重要な役割を果たす。CIOはITのバックグラウンドを持つ人である必要はない。プログラミングができる必要もない。デジタルで変化するビジネス環境に合わせた変革を推進することができればよい」
(ヤマト運輸 デジタル機能本部 執行役員の田中従雅氏)
「この時流に乗り遅れないようにするためには、たゆまぬ自己改革が必要である。成功することはもちろん重要なことだが、成長の過程において失敗はつきものである。失敗したとしてもすぐに立て直し、そこから速やかに学ぶことが肝要だ」
(Axis銀行 IT部門責任者 兼 副頭取のAvinash Raghavendra氏)
「CIOの役割として、従来のバックオフィス業務の側面を強調するのではなく、フロントオフィスでエンゲージメントを高めるような役割をより強調したい。今やテクノロジーがビジネスの主導権を握っている」
(Nationwide Insurance 上級副社長 兼 CTOのMelanie Kolp氏)
以上、これらのメッセージについては何の解説も必要ないだろう。CIOが果たすべき役割について、いずれも核心を突いているのではないだろうか。
一方、グラフについては以下の2つの図を紹介しておきたい。
図1のグラフは、「今後3年間で、最も投資したいと考えるテクノロジーの分野は次のうちどれか」という質問に対する複数回答の分野別の割合である。ちなみに、「クラウドに続く投資分野として」というのが、この質問の前提となっている。
図1:CIOの視点での今後3年間におけるテクノロジーの投資分野の割合(出典:IBM「経営層スタディ・シリーズ:CIOスタディ2021」)
レポートでは、この調査結果について特に解説していないが、この質問の意図について「CIOは業務運営の基盤となる基幹ITサービスを日常的に提供しているが、さらに将来の成功への道を切り開くイノベーションの主導役をも期待されている」と記している。
筆者がこのグラフに注目したのは、第5世代移動通信システム(5G)や人工知能(AI)よりIoTと自動化の割合が高かったからだ。CIOの視点では、今後3年間で見ると、IoTと自動化への投資がイノベーションを起こしていく上で効果的だと捉えているのだろう。また、5GやAIを一層生かすためにもIoTと自動化の進展が大きく影響すると見ているようだ。IoTはまさしくITの延長線上にあることを改めて感じた調査結果である。