APACの企業、デジタルスキルトレーニングの必要性を認識も大半は未実施

Eileen Yu (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部

2022-04-06 11:42

 アジア太平洋(APAC)地域のほとんどの組織は、従業員にデジタルスキルのトレーニングが必要であることを認識しているが、それを実施する計画を立てている組織はほとんどない。最も需要の多いデジタルスキルにはクラウドとサイバーセキュリティが含まれているため、スキルのギャップが放置されたままだと、雇用主はビジネス上の重要な利点を享受できないおそれがある。

 具体的には、会計や顧客関係管理(CRM)のSoftware as a Service(SaaS)アプリケーションなどのクラウドベースツールを使用する能力が2025年までに最も需要の多いデジタルスキルになることが、Amazon Web Services(AWS)の委託した調査で明らかになった。その次に需要が多くなるのは、サイバーセキュリティスキルだ。これには、プロトコルを開発または展開する能力や、組織のデジタルシステムとデータのセキュリティを維持する能力も含まれる。

 コンサルタント会社のAlphaBetaが2021年8月に実施したこのオンライン調査では、シンガポール、オーストラリア、インド、インドネシア、日本、ニュージーランド、韓国の7つのアジア太平洋市場の2166人の雇用者と7193人の労働者が回答した。雇用者は民間および公共部門の組織のビジネスマネージャーとITマネージャーで構成されており、労働者には、仕事でデジタルスキルを使用する技術職と非技術職のフルタイム従業員が含まれる。

 この調査では、テクニカルサポート、デジタルマーケティングスキル、オンプレミスからクラウドへの移行を管理する能力も、最も需要の多いデジタルスキルのトップ5に入っていることが明らかになった。2025年までに需要が多くなるそのほかのデジタルスキルには、人工知能と機械学習、クラウドアーキテクチャーの設計、モノのインターネット(IoT)スキル、ソフトウェア開発が含まれる。

 特に、世界的なパンデミックによって多くの組織でデジタルトランスフォーメーションが加速したことを受けて、従業員もデジタルスキルの必要性を実感するようになった。

 従業員の約88%は仕事の変化について行くために、以前よりも多くのデジタルスキルが必要になっていると述べており、86%は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって自分たちの組織でデジタル採用のペースが加速したと回答した。

 AWSで東南アジア諸国連合(ASEAN)地域の教育およびトレーニング責任者を務めるEmmanuel Pillai氏が米ZDNetとのビデオインタビューで述べたところによると、特に、従業員の64%は、2025年までにクラウド関連のスキルのトレーニングが必要だと回答したという。

 従業員の約54%が安全でセキュアなデジタルシステムを維持する方法を学ぶ必要があると述べ、33%はオンプレミス施設をクラウドに移行する方法を学習する必要があると回答した。27%は、キャリアアップのためにクラウドアーキテクチャー設計のスキルセットが必要だと考えている。

 しかし、97%の企業が従業員にデジタルスキルのトレーニングを施す必要性を認識している一方で、実際にそれを実施する計画を立てた企業はわずか29%だった、とPillai氏は指摘した。

 実際に、労働者の3分の2は、今後のキャリア要件を満たすのに十分な速さでデジタルスキルセットを習得できているという確信はない、と回答した。そうした確信のなさは、55歳以上の従業員の間でより顕著だった(83%)。同じ回答をした40歳~55歳の従業員は75%、40歳以下の従業員は60%だった。

 すべての組織と従業員の93%は、競争力の維持に必要なデジタルスキルへのアクセスに関して、さまざまな障壁に直面している。最も多くの回答者が不足している要素として挙げたのは、時間と知識だった。

 障壁として、約72%は利用可能なトレーニングコースに関する知識の不足、66%は必要なデジタルスキルについての知識の不足を挙げた。65%は課題として、トレーニングコストの高さを挙げている。

 従業員の71%はトレーニングに取り組む時間がないことを障壁として挙げ、64%は質の高いトレーニングの不足を挙げた。

企業はスキル投資の長期的な利点に目を向ける必要がある

 ただし、APAC地域の組織は、デジタルスキルトレーニングを追加コストとみなすのではなく、その長期的な利点に目を向ける必要がある、とAccess Partnership傘下のAlphaBetaでアジア太平洋地域担当ディレクターを務めるGenevieve Lim氏は述べた。

 同氏が米ZDNetに語ったところによると、デジタルスキルトレーニングに投資した組織の88%で、スタッフの生産性が向上したという。また、83%で従業員の定着率が向上し、82%で売上高が増加した。

 従業員の80%は、新しいデジタルスキルを学べることが仕事の満足度の向上につながったと回答している。こうした調査結果は、企業が世界的な大量離職現象の中で優秀な人材を維持する方法について、さまざまな洞察を提供している、とLim氏は述べた。

 クラウドスキルのギャップを放置しておくと、組織はそうしたテクノロジーがもたらす利点を享受できなくなってしまう、と同氏は言う。

 例えば、新製品の開発と市場投入を支援する人材が不足していると、イノベーションに必要な時間が長くなってしまう。さらに、デジタルテクノロジーやクラウドテクノロジーがもたらすとされるコスト効率と生産性の向上も享受できなくなる、とLim氏は話す。

 アジア太平洋地域の7市場の8600万人以上の従業員は、テクノロジーの変化について行くため、これからの1年間にデジタルスキルトレーニングを受ける必要があるだろう、と調査報告書は述べている。この数字は、これらの市場の全労働者の14%に相当する。

 アジア太平洋地域の企業は、移行からクラウドネイティブ環境での運用まで、クラウド導入プロセスのさまざまな段階にあるが、AWSは250種類以上のマネージドクラウドサービスによって、あらゆる段階で企業をサポートしたいと考えている、とPillai氏は述べた。

 同氏によると、AWSは、セキュリティに特化したトレーニングと認定を提供するだけでなく、セキュリティをすべてのトレーニングプログラムに「最初から組み込んでいる」という。同氏は、クラウドシステムとデータの保護という共通の責任に言及し、企業が安全なアプリケーションを構築して保護する方法を理解する必要性を強調した。

 そうすることで、後でギャップを埋めることが必要になる可能性をさらに下げることができる、と同氏は述べた。同氏によると、あるAWSの顧客は、自社のエンジニアがセキュリティバイデザインの考え方でアプリケーションを開発するように訓練されていたため、市場投入までの時間を15%~25%短縮することに成功したという。

 つまり、その顧客は、デバッグやバグの修正に以前ほど長い時間を費やす必要がなくなったので、アプリケーションをより速く市場に投入できるようになった、とPillai氏は述べている。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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