Amazon Web Services(AWS)は、サーバー仮想化とクラウド化により、アジア太平洋(APAC)地域で二酸化炭素排出量を78%削減できる効果が期待されるとの調査結果を発表した。再生可能エネルギーを利用すれば、さらなる削減効果が得られるとしている。
調査は、AWSが451Researchに委託して実施したもので、日本とオーストラリア、インド、シンガポール、韓国の年商1000万~10億ドルの515社を対象にIT担当者へアンケートしたほか、サーバーやデータセンターなどおける電力消費モデルを用いた分析も行った。
8月19日にアマゾン ウェブ サービス ジャパンが開催したメディア向け説明会で、451Research データセンターサービス兼インフラストラクチャ担当 リサーチディレクターのKelly Morgan氏は、APACの企業がオンプレミスのサーバーをクラウドサービスのデータセンターに移行することで67%、クラウドサービスのデータセンターのエネルギー効率を改善することで11%、合計で78%の二酸化炭素排出量を削減できる可能性があると解説した。
451Researchの分析によるサーバーやデンターセンターでの二酸化炭素排出削減効果(AWS資料より)
「多数の新しいサーバーで多数のワークロードを実行するとエネルギー効率が良い。また、古いデータセンターよりも新しく運用が最適化されたクラウドサービスのデータセンターの方が効率的といえる」(Morgan氏)
調査結果の概要を見ると、国別の平均のサーバー仮想化率では、最高がインドの30%、最低がオーストラリアの23%で、日本は25%だった。ワークロードの統合化の状況では、積極的に推進しているのがインド(33%)や日本(30%)、仮想化やコンテナー化を予定していないとしたのが韓国(52%)やオーストラリア(34%)だった。Morgan氏によれば、サーバーの仮想化率は、オンプレミスでは15%程度、クラウド事業者では60%程度だという。
また、データセンターでの平均的なサーバーの利用期間は、日本が51カ月で最も長く、最短はオーストラリアの38カ月だった。「日本のような長期利用は費用効果を得られるが、短期で最新機器を使う方がエネルギー効率は良いといえる」(Morgan氏)
オンプレミスデータセンターのPUE(Power Usage Effectiveness:電力使用効率。値が小さい方が効率は高い)では、日本とシンガポールがともに1.9で、5カ国のうち最も効率が良いとされた。なお、クラウドサービスなどを提供する事業者の最新型データセンターのPUEは1.2~1.5程度となっている。
Morgan氏によれば、日本ではオンプレミスのサーバーをクラウドサービスのデータセンターに移行することで年間1885トンの二酸化炭素を削減でき、クラウドサービスのデータセンターで100%再生可能エネルギーを利用すればさらに493トン削減できるという。「日本はサーバーの長期利用などでエネルギー効率に改善の余地があるが、データセンターの効率はとても高いといえる。IT機器の電力消費を工夫することで、IT活用と経済効果を追究できるだろう」(Morgan氏)
調査した5カ国で期待される二酸化炭素排出の削減効果(AWS資料より)
AWSでAPAC・日本のエネルギー政策責任者を務めるKen Haig氏は、Amazonとして2025年までに100%再生可能エネルギーを採用すること、2040年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにするとの目標を紹介し、同社の取り組み概要を説明した。
Haig氏によると、二酸化炭素排出削減の約3分の2はサーバー領域の取り組みになるとのこと。例えば、同社はARMベースのプロセッサー「Graviton」を自社設計する。2019年に開発したGraviton2は、従来型に比べエネルギー効率が3.5倍高いとし、今後新設するデータセンターで全面的に採用していくという。また、無停電電源装置(UPS)の使用をやめて小型バッテリーパックに切り替えたり、交流電源から直流電源への変換に伴う損失を低減したりすることでも電力消費を35%削減している。データセンターの施設面では、エンボディドカーボンの削減、気化冷却や再生冷却水の活用などを進めていくとした。
Amazon全体として2020年時点での再生可能エネルギーの利用率は65%になり、風力発電や太陽光発電などを推進する多数のプロジェクトを実行しているという。
Haig氏は、「日本でも『JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)』に(アマゾン・ジャパンとして)加盟しており、JCLP加盟組織などと連携して再生可能エネルギーの利用を促進していきたい」と話した。なお、「日本において自然エネルギーの利用などはこれから積極的に取り組むことになる」とも述べ、具体策をどう実行するかが今後の課題であるようだ。
AWSの佐藤氏、Haig氏、451ResearchのMorgan氏(左から)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 事業開発統括本部長の佐藤有紀子氏は、環境分野の新興企業がAWSを活用しているとして、電力ベンチャーのTRENDEの事例を挙げた。同社は、6カ月間でシステムを構築して2018年に営業を開始し、サーバーレスやブロックチェーン、機械学習などのテクノロジーを利用して余剰電力取引や需給予測などの実証などにも取り組んでいるという。
TRENDEがAWS上に構築した余剰電力取引システムの構成(AWS資料より)
Haig氏は、一連の取り組みでデータセンター設備に関係する企業と協業しているとも述べた。説明会後に同氏に詳しく尋ねると、「われわれは、自身の規模を生かすことで、サプライヤーやベンダーと協力し、データセンターの建設やサプライチェーンで使用する設計、材料を再発明している。データセンターの設計、構築、運用の各方面における排出量を削減するため、サプライヤーと協力して製造や建設プロセスの効率を向上すべく取り組んでいる」と回答した。
一例として同社は、近い将来にデータセンターで使用するセメントについて、補助セメント材料の使用を増やす予定だという。また、低炭素コンクリートを生産する技術を評価しているといい、「例えば、CarbonCure Technologiesでは、コンクリート生産時に二酸化炭素を注入する炭素除去技術を開発し、炭素を隔離・固定化して、セメントでの含有量を減少させており、AWSはCarbonCureのコンクリートの使用することで、建物におけるエンボディドカーボンの低減を図っている」(Haig氏)という。
今回の説明は、あくまでクラウドサービス提供側の視点によるものだが、ユーザー側の環境対策の観点ではどうか。Haig氏に聞いたところ、「クラウドサービスの利用で得られる効果に加え、データレイクや機械学習などのテクノロジーを利用してオペレーションなどの理解を深め、非効率な点の把握や問題の迅速な特定などを通じて二酸化炭素の排出量を削減する機会を特定していける」とした。また、Trusted AdvisorやAuto Scaling、CloudWatchといったツールをユーザーが活用することでもリソースの最適利用を図れるとし、同社のソリューションアーキテクトも顧客にエネルギー消費量を減らすための方法などを案内していると説明した。