松岡功の「今週の明言」

メインフレームを作り続けるIBM、クラウドシフトを進める富士通、それぞれの思惑とは

松岡功

2022-04-15 10:04

 本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。

 今回は、日本IBM 専務執行役員テクノロジー事業本部長の三浦美穂氏と、富士通 執行役員SEVP CTOのVivek Mahajan氏の発言を紹介する。

「IBMはメインフレームを作り続ける」
(日本IBM 専務執行役員テクノロジー事業本部長の三浦美穂氏)

日本IBM 専務執行役員テクノロジー事業本部長の三浦美穂氏
日本IBM 専務執行役員テクノロジー事業本部長の三浦美穂氏

 日本IBMは先頃、メインフレームの新製品「IBM z16」を発表した。三浦氏の冒頭の発言は、そのオンライン発表会見の質疑応答で「競合する富士通は2030年度末にメインフレームの生産・販売を終了する方針を表明したが、IBMは今後もメインフレームを作り続けるのか」と聞いた筆者の質問に答えたものである。

 発表会見の概要は速報記事をご覧いただくとして、ここでは三浦氏の発言に注目したい。

 同氏はメインフレームについて、「多くのお客さまの基幹業務を支える役割を担っている」とし、「IBMはこのメインフレームを将来にわたってのオープンなハイブリッドクラウドと人工知能(AI)を支える重要な要素だと考えている」との見解を述べた。

 その上で、メインフレームの進化について、図1を示しながら次のように説明した。

図1:メインフレームの進化(出典:日本IBMの会見資料)
図1:メインフレームの進化(出典:日本IBMの会見資料)

 「基幹系システムに蓄積された基幹業務のデータは、フロントエンドのユーザー接点ともつながって有効に活用されており、それがさまざまなデジタルトランスフォーメーション(DX)アプリケーションを生かす形にもなっている。つまり、基幹に求められる『信頼』とDXに求められる『スピード』を両立させられるのが、基幹系システムを担うメインフレームである」

 さらに、こう続けた。

 「多くの企業でITインフラのモダナイゼーションが求められているが、IBMでは(図1のように)基幹とDXを連携・統合した形で捉えており、メインフレームはレガシーだから必要ないとか、システムを全てクラウド化すべきだとは考えていない」

 「メインフレームは『信頼』と『スピード』を両立させられる」との表現が印象的だった。とはいえ、クラウドというIT環境のパラダイムシフトの中で、メインフレームに対する見方は厳しくなりつつある。さらに、IBMの宿敵だった富士通が先頃、2030年度末にメインフレームの生産・販売を終了する方針を表明したことで、IBMの姿勢が改めて注目されるようになった。

 新製品の発表会見で「まだ続けるのか」と聞くのも考えてみれば失礼な話だが、上記の流れもあるので、「IBMは今後もメインフレームを作り続けるのか。メインフレームの処理はクラウドでカバーできないと考えているのか」と率直に聞いてみた。すると、三浦氏は冒頭の発言とともに次のように話した。

 「IBMは今回の新製品の次もその次の製品も既に研究開発を進めている。クラウドについてはハイブリッドと言っているように、クラウドを使用した方が効果的なアプリケーションもあるので、要は適材適所で動かせるようにして、お客さまのご要望に応じて柔軟に連携できる仕組みを整えることが大事だ。そういう対応をメインフレームも含めて柔軟に行えることこそがIBMの特徴だと考えている」

 何やら説得されたかもしれないが、「むしろメインフレームをこれからもっと生かしていく」という姿勢すら感じた三浦氏の回答だった。

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