九州地方を中心にスーパーセンター「トライアル」を展開するトライアルカンパニーは5月17日、福岡県宮若市に開設したリテールAI開発拠点「musubu AI」を報道関係者に披露した。スーパーセンターとは、食料品や衣料品、住居関連商品を一つのフロアに集めた業態。
musubu AIの外観。旧吉川小学校の校舎をリノベーションしており、入り口に学校の名残が感じられる
トライアルの特徴は、来店客の利便性向上やスタッフの業務効率化に向けて、店舗運営にIoT機器を活用している点にある。代表的なものとして、セルフレジ機能を搭載した買い物カート「スマートショッピングカート」や、人や棚の動きを人工知能(AI)で検知する「リテールAIカメラ」などがある。これらのIoT機器は、グループ企業のRetail AIが開発している。
トライアルカンパニーと宮若市は、共同プロジェクト「リモートワークタウン ムスブ宮若」を立ち上げ、小売業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)によって地方創生を進める構想を掲げている。
トライアルカンパニーはDXの推進に向けてメーカーや卸売業者と積極的に連携しており、その姿勢はmusubu AIにも見られる。同拠点では毎月1週間、データサイエンティストらを対象とした研修「宮若ウィーク」を開催しており、5月分の今回はサントリー酒類や日本ハム、花王など28社・1団体が参加している。東京など遠方から参加する人々は、トライアルグループが経営するマンションや宿泊施設から通っているという。
宮若ウィークの2日目に当たる取材日、参加者はワークショップの形で「顧客理解」について学んでいた。午前は他の企業とともに業界全体の課題を把握し、午後は企業ごとに分かれ、自社の課題解決に向けてアイデアを出し合う。若宮ウィークで構想・開発された技術は隣接している店舗「トライアルGO脇田店」で実証できるため、構想から実証までを素早く行うことが可能となる。
他社と一緒に学ぶことについて、サントリー酒類 広域営業本部 部長の中村直人氏は「いろんなメーカーや卸の方々と同じ目的を持って議論できるのは非常に有益。他社の人材育成やDXへの取り組み状況を知ることもでき、自社の立ち位置が分かる」と手応えを感じていた。
テレワークやオンライン会議が普及する中、実際に一つの場所に集まるメリットに関して、カルビー 営業企画本部 リテールサイエンス部 部長の松永遼氏は「当社もオンラインでワークショップを開くことがあるが、ディスカッションに最適な人数は4人ぐらいで、いわゆる『本音トーク』も難しい。リアルだと10人ぐらいの大人数で活発に意見を交わすことができる」という。
トライアルカンパニー マーケティング部 部長の野田大輔氏は「musubu AIでの取り組みは、われわれにとっての直接的な利益というより、小売業界に携わる人々が議論してイノベーションを起こし始めていることに意味がある。『小売りを変えたい』と思う仲間を集め、日本の小売業界おけるDXの拠点にしていきたい」と語った。
以降は、musubu AIとトライアルGO脇田店の様子をお伝えする。