トライアルカンパニーは、九州地方を中心に250店舗以上のスーパーセンター(食料品や衣料品、住居関連商品を一つのフロアに集めた業態)「トライアル」を展開している。
同社は店舗内に、セルフレジ機能を搭載した買い物カート「スマートショッピングカート」や、人や棚の動きを検知する「リテールAIカメラ」などを設置。これらのIoT機器で収集されるデータをシステム基盤「MD-Link」経由で約260社のメーカーや卸売業者と共有している。
近年、店舗におけるIT活用はよく見られるが、トライアルの大きな特徴はIoT機器やシステムをグループ企業のRetail AIが自ら開発している点だ。同社は2018年に設立され、国内に約50人、中国に約300人のエンジニアを擁する。代表取締役社長の永田洋幸氏に、同社の機器に隠された工夫や自社グループを超えた取り組みを聞いた。
Retail AI 代表取締役社長 永田洋幸氏(写真提供:Retail AI)
現在の国内小売市場は140兆円規模で、人口減少に伴う市場の縮小やECの伸長により、30年後には半分になるとされる。また、市場規模の約3割に相当するコストが最適化されていない「ムダ・ムラ・ムリ」が存在しているという。
AI活用の背景について、永田氏は「トライアルの店舗は都会ではなく、人が集まりにくい地方にあります。今の売り上げが良くても、時代の変化に対応しなければ、10~20年後には間違いなく立ちゆかなくなります。そのため、AI化で流通の“ムダ・ムラ・ムリ”を減らすことが大事です。余分なコストを削減すれば、より低価格で商品を提供することにもなります」と語る。
店舗におけるIoT機器の活用例を紹介する。まず、スマートショッピングカートのセルフレジ機能により、来店客はレジ待ちの手間がなくなり、トライアルは従来より少ないレジの担当者で店舗を運営できる。
スマートショッピングカートはコロナ前に稼働を開始したが、レジ待ちによる密集や現金の受け渡しを回避でき、「新しい生活様式」にも則しているという(写真提供:トライアルグループ)
スマートショッピングカートを用いた買い物の流れは、来店客が専用のプリペイドカードを同カートのバーコードリーダーにスキャンし、会員情報を登録。その後、商品のバーコードをリーダーにスキャンし、カートに入れる。最後に決済ゲートを通ると、レシートが自動で発行される。決済ゲートに付属しているスキャナーでカートのバーコードを読み込むと、購買データがサーバーに転送される仕組みだ。
同カートは、プリペイドカードに登録されている顧客の属性や購買履歴に基づき、クーポンやレシピの配信、商品のレコメンドも行う。例えば、レタスをカートに入れた顧客に対し、ドレッシングを勧めることなどがある。同カートを導入後、来店頻度は13.8%向上したという。