編集部からのお知らせ
新着特集PDF「IOWN構想のNTT」
おすすめ記事まとめ「ランサムウェア」
デジタル岡目八目

デザイン思考を養う“デジタルの遊び場”を生かす、中堅SIリンクレアの取り組み

田中克己

2022-10-28 07:00

 「右脳型のデザイン思考を学び、顧客とイノベーションを創造できるITエンジニアに」。中堅システムインテグレーター(SIer)のリンクレアがその育成拠点の施設として、東京・表参道に「デジタルの遊び場“表参道Base”」を開設したのは2019年4月になる。今、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、活動を抑えていた同施設の運営を本格化させる時期に来た。

 同社は1970年1月、独立系ソフトウェア会社としてシステム開発とコンサルティング、教育を事業の3本柱にスタートする。この形態は今日も続いており、従業員500人弱、売り上げ約117億円の事業規模になる。月平均約200社の顧客企業と約400プロジェクトを手掛けるための人材育成に加えて、新規顧客の開拓や新規案件の獲得に力を入れている。代表取締役社長の吉澤均氏によれば、約60人の営業とマーケティングの配置とBase、教育事業がその役割を担ってもいるという。

 同社は2017年にデジタル思考の学びを義務教育化し、コロナ禍前に全従業員の研修を終える。研修の拠点でもあるBaseの運営に携わるオープンデザイン本部 部長の松田周作氏は「システムインテグレーション(SI)は論理的な思考をつかさどる左脳を使うのに対して、Baseは右脳を働かすアイデア発想の拠点」と、Baseが新しいSIビジネスの展開に重要な意味を持つという。

 確かに、請負型の伝統的なSIビジネスで勝ち残るのが厳しい状況にあるのは、多くの業界関係者が理解している。そこで、ITサービスの提供へと付加価値の高いビジネスにかじを取る。さらに、ITやデジタルの専門家として、ユーザー企業のパートナーになって、イノベーションを一緒に創造する次世代SIのビジネスモデルを目指す。リンクレアが本社のある品川ではなく、表参道という地にBaseを設けたのは、そんなビジネスを展開するために必要な人材を育成することにもある。

 Baseは、地元の原宿2丁目商店会に加盟し、地域の活性化にも挑んでいる。「デジタルの視点で商店を応援する」(松田氏)ことで、在庫問題に悩むブランドショップなどのさまざまな課題を、商店会公認のデジタルアドバイザーとして相談に乗る。実は、福島県会津若松市における地域課題の解決に携わったことから、表参道でも同じような社会課題の解決に当たれることに気が付いたのだという。商店の相談に乗り、悩みを聞き、知り、解決する。ある意味、SIビジネスの基本、当たり前のことである。

 Baseでは「AIよろず相談会」も開催する。青山学院大学理工学部の小野田崇教授の協力を得て、人工知能(AI)を活用したいユーザーとざっくばらんな雑談の場で、「経営からデジタル化を進めろと指示されたものの、どうしたらいいのか分からない」といったIT部門や事業部門の担当者に、「Baseで一緒にテーマ作りから始めましょう」と提案する。そんなAI活用に悩むユーザー企業から1社1人が参加する十数人規模の雑談会でユーザー同士のコミュニケーションを図ったり、近所の飲食店で行った2次会でAIシステムを一緒に開発するプロジェクトを立ち上げたりしたこともあるという。

 例えば、機械の故障予知システムを作りたいとなったら、ユーザーの責任者がプロジェクトリーダーになり、ユーザーの事業担当者、リンクレアのエンジニア、大学院生らがメンバーとなり、システムを開発していく。ユーザーはデータサイエンティストにしたい人材を、大学はここでの実体験を学会で発表したい大学院生を、メンバーとしてそれぞれ送り込む。

 デジタル思考のワークショップも開いている。社内向けだけではなく、ユーザーや同業者らのエンジニアらが参加する公開講座も用意する。研修では、「これはおかしい」と思ったり、観察したりする能力を高めることにあるので、講義よりもプロセス体験に重きを置いている。表参道の街を歩いて、商店街の人々にインタビューし、そこから与えられたテーマを解決するアイデアを出し、プロトタイプを作り上げていく。

Baseの取り組み(出典:リンクレア)
Baseの取り組み(出典:リンクレア)

 そのデジタル思考をはじめとする教育事業に取り組むのが、リンクレア子会社のリンプレスになる。2017年に教育事業を分社した同社は、デザイン思考やIT企画、機械学習などのテクノロジー、プロジェクトマネジメントなどの研修コースをそろえ、IT部門だけではなく、デジタル変革(DX)化に取り組む事業部門の担当者らも対象にする。

 リンプレス 代表取締役社長の三宮壮氏は「ユーザーの内製化を支援する」という。新しい学びとして、最近は“暗ラーニング”にも注目する。目をふさいだ状態でのコミュニケーション力を養うもので、パラリンピックでも注目を集めた「ゴールボール」から生まれたものだという。情報を正しく伝えるために、大きな声を出して分かりやすく話す。例えば、「年齢順に並ぶ」という課題であれば、どのように並ぶかイメージしたり、参加者に年齢を聞いたり、確認したりしていくことになるだろう。プロジェクトのチームビルディングにも使えるという。

 コロナ禍に働き方が大きく変わってきた。スーツを脱いで、Baseに集まったエンジニアらがユーザーとともにデジタル思考を磨き上げていく。そこから新しいSIビジネスが生まれてくるのだろう。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNet Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]