本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、レノボ・ジャパン 代表取締役社長の檜山太郎氏と、富士通 執行役員 SEVPの島津めぐみ氏の発言を紹介する。
「日本はもっとデータを活用できる」
(レノボ・ジャパン 代表取締役社長の檜山太郎氏)
レノボ・ジャパン 代表取締役社長の檜山太郎氏
レノボ・ジャパンは先頃、法人向け事業戦略について記者説明会を開いた。冒頭の発言は、8カ月前に同社の社長に就任し、今回、事業戦略の記者会見に初めて登壇した檜山氏に「今の思い」を聞いたところ、ご自身が現職で最もやりたいことの前提となる問題を提起したものである。
檜山氏は1987年に東芝へ入社。2017年に日本マイクロソフトへ移り、コマーシャルパートナーおよびコンシューマー事業を統括。直近では執行役員常務を務めていた。コンシューマー事業を率いていたことから、PC業界では顔が広い。筆者は、同氏がパートナービジネスを統括していた時期に、クラウド時代のパートナービジネスの在り方について踏み込んで取材したことがある。その際の丁寧で真摯な対応が印象に残っている。
レノボ・ジャパンの社長には2022年10月1日付で就任。同時に、親会社のLenovoグループに名を連ねるNECパーソナルコンピュータの代表取締役執行役員社長も務めることになった。
図1は、檜山氏がLenovoグループの「現在地」として示したものだ。中でも左下に表記されている「PC市場シェアNo.1」が目を引く。ただ、同グループが先頃発表した2023年3月期決算は、主力のPC事業が新型コロナウイルス感染拡大に伴う特需の反動減で落ち込み、全体として減収減益となった。その意味では、檜山氏は厳しい時期に日本法人の経営の舵取りを担ったようにも見て取れる。
図1:Lenovoグループの現在地(出典:レノボ・ジャパンの会見資料)
会見の内容については速報記事をご覧いただくとして、以下では冒頭の発言に注目したい。
会見の質疑応答で、筆者は檜山氏に「レノボ・ジャパンの社長に就いて8カ月が経過した今の思いを、ご自身のこれまでのキャリアも踏まえてお聞かせいただきたい」と聞いた。すると、同氏は次のように答えた。
「日本のメーカーから日本マイクロソフトへ移ってビジネスやマネジメントのスピード感に驚かされたが、今回レノボに移って改めてそのスピードの速さを感じている。今の思いとしては、とにかく日本のIT産業を盛り上げていきたい。欧米に比べてまだまだ遅れているところが多いので、追いつき追い越していけるように頑張りたい」
「そうした中で、私が注目するのはデータの活用。デジタル化が進む中で、日本で生み出されて取り扱われるデータ量は世界中でもトップ3に入っていると、私は見ている。なので、日本はもっとデータを活用できるはずだ。ところが、データを使って新しいビジネスを生み出したり、何かの効率を上げたりするといった活用の成果になると、世界でも後進国の状態だ。データ活用を進めないと、日本は国力を上げることができない」
「ということで、私は日本のメーカーを飛び出してマイクロソフトのプラットフォームで日本のデータ活用を促進しようとした。だが、プラットフォームを普及させることはできてもユーザーの活動を盛り上げないと、データ活用は進まないと感じたので、今回PCなどでユーザーと直接やりとりを行える立場になってしっかり支援していきたいと考えた次第だ」
ストーリーのあるキャリアステップに、檜山氏の信念を垣間見た気がした。今後の経営手腕に注目していきたい(写真1)。
写真1:会見には檜山氏(左)とレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 代表取締役社長のJon Robottom(ジョン・ロボトム)氏が登壇