プロセス・ブレードについて補足すると、もともとはハードウェアの世界で用いられる抜き差しが可能なサーバー(ブレード)を筐体に差し込んで構成する形態のサーバーコンピューターの概念に由来します。必要なブレードを選択し差し込むことで、組織がアジャイルな「働き方」(Ways of Working:WoW)を実践できるように「構成」します。
DAツール・キットの4つの階層を見ていくと、図1の下部にある「Foundation」は、DAの根幹部分をなすコンセプトやマインドセットなどで構成されています。「Disciplined DevOps」は、動くソフトウェアの継続的なデリバリーを可能にするプロセス・ブレード群、その外側の「Value Stream」は、前述の通り顧客に価値を提供する製品やサービスを生み出すためのプロセス・ブレード群、最外周の「Disciplined Agile Enterprise」は、企業活動そのもののアジリティーを向上すべく、法務、財務、人事などの企業の組織機能にまで範囲を拡張しています。
DAの中核は、ツール・キットが提供する「プロセス・ゴール」「ディシジョン」「オプション(選択肢)」ですが、これらを掘り下げる前に、まず図1のDisciplined DevOpsの階層にある「Disciplined Agile Delivery(DAD)」に着目します。これは「Delivery」という名が示す通り、DAにおける開発ライフサイクル(開始から終了までの流れ)の定義であり、「方向付け(Inception)」「構築(Construction)」「移行(Transition)」という3つのフェーズおよびそれら横断の「継続(Ongoing)」のレイヤーで構成されています(図2)。なお、DADは6種類定義されている開発ライフサイクル(スクラムベースのアジャイル開発、カンバンベースのリーン開発など)の総称であり、プロジェクトの特性に合わせて最適なものを選択します。

図2:Disciplined Agile Deliveryのライフサイクルとプロセス・ゴール(出典:https://www.pmi.org/disciplined-agile/process/introduction-to-dad/process-goals)
DADのフェーズ/レイヤーに配置された計24のプロセス・ゴールが、開発の開始から移行までの主なステップと、チームの成熟度を向上させるための継続的な取り組みの詳細説明となっています。それぞれのプロセス・ゴールは、そのプロセスを実際に履行する際のステップとも言える「ディシジョン・ポイント」に分解され、それぞれのディシジョン・ポイントはそのステップで選択可能なオプション(選択肢のリスト)で構成されます。
例えば、方向付けフェーズにおいてリリース計画を立てる際、チームはどのようなステップを踏むのでしょうか。図2の「Plan the Release」プロセス・ゴールには、図3にある8つのディシジョン・ポイントが定義されています。それらの一番上の「計画の源」となるチームの組成方法としては、「自己組織化チーム」から「マネジャー主導型」まで4つの選択肢が用意されており、チームはそれぞれの選択肢の長所短所を参照しながら選択します。なお、選択肢のリストに上向きの矢印の記載がある場合、より上方にある選択肢がDAの推奨であることを意味します。矢印の記載がない場合は、選択肢間の序列はありません。なお、プロセス・ゴール、ディシジョン・ポイント、選択可能なオプションを体系的に参照可能にする仕組みとして「DAブラウザ」と呼ばれる仕組みが提供されており、ユーザー登録なしで参照できるようになっています。