DAでは、アジャイル導入に対して、「現在チームがいる場所からスタートし、直面している状況下でできるベストを尽くし、常に良くなるように努力する」ことを是とする現実的なアプローチを採ります。 チームが置かれている状況や狙いといったコンテキスト(文脈)が重要であり、チームは、先人たちの経験や知見に基づく吟味された選択肢の中から、最適な選択を行い、現実的な決定を下すべきだと考えているのです。
DAの活用を検討しているチームが実施する最初のステップは、前述の6つのDADの開発ライフサイクルから、プロジェクトに最も適した開発ライフサイクルを選択することです。次に、チームは自分たちの環境を評価し、実行するプロセスを決定します。図3のプロセス・ゴールは、現在の状態(As-Is)と、より成熟度の高い状態(To-Be)にたどり着く上で実践すべきプラクティスの選択肢を特定するのに役立ちます。DAブラウザは、このスタディーを行う上で有効なオンラインツールと言えます。
Scaled Agile Framework(SAFe)
SAFeは、Dean Leffingwell氏により考案された大規模アジャイル開発のフレームワークであり、2011年に最初のバージョンが発表されました。SAFeはその後改訂を重ねるにつれ、ソフトウェア開発におけるアジャイルやリーンの考え方をベースに、ビジネス活動を行う組織自体のアジリティーや変化への適応力を獲得する上での方法論へと発展し、最新バージョンであるSAFe6においては自らを「ビジネスを加速するシステム」と呼んでいます。
興味深いことに、過去にLeffingwell氏はDAのルーツの一つとして前述したRational Softwareに在籍し、ソフトウェア要求の第一人者として活動していた時期がありました。その2010年の著書「Agile Software Requirements」(邦訳:「アジャイルソフトウェア要求」)において提唱した開発のフロー(流れ)をスムーズに保ち、あるいはさらに加速させるための8つのプラクティスは、その後改定を受けつつも、最新バージョンであるSAFe6においても「8つのフローアクセラレーター」として継承されていることが分かります。対象領域がソフトウェア開発の領域からビジネスの領域にシフトしても、基本となる考え方に大きな変化はないのです。
SAFeの全体像、特に最新版であるSAFe6のポイントに関しては、2023年4月に行われたアナウンスの紹介記事に詳しいため、網羅的な説明はそちらに譲ることとして、ここではその基本構造を見てみます。SAFeには4つの構成(Essential、Large Solution、Portfolio、Full)があり、複数のアジャイルチームが単一のアジャイルリリーストレイン(Agile Release Train:ART)を構成しソリューションを構築するEssentialから取り組むケースが一般的です。
ARTとは、ステークホルダーと協業しながら一つのソリューションを作る複数のアジャイルチームの集合体(全体で50~125人程度)で、比較的長期に渡りインクリメンタルな開発と出荷を行い、それを通じて企業のバリューストリームの実現に貢献します。その意味で、ARTはSAFeの要とも言えます。Large Solutionになると複数のARTを束ねた形となり、さらにPortfolioでは、複数のバリューストリームを束ねてポートフォリオ管理を行うレベルにまで拡張されます。Fullは、Essential、Large Solution、Portfolio全ての要素を含む、文字通りのフル構成です(図4)。

図4:SAFe6の4つの構成(図はEssential、Large Solution、Portfolio全てを含むFull構成)(出典:https://scaledagileframework.com/#)
SAFeの要であるARTの実際の運営は、ART全体が原則として2週間という共通のケイダンス(リズム=スプリント)で行われます。最初にARTを構成する開発メンバーのみならずビジネスオーナー、サポートチームなども含む全ての関係者が一堂に介して2日間の計画セッションを行い、その後10週間のPlanning Interval(PI)において、ARTを構成する各チームが何をいつまでに作成し、ソリューション全体としてそれらをいつ統合するのかを協議・調整・合意します。この計画セッションはPIプランニングと呼ばれます。PIは、実際に動く、テスト済みの、潜在的に出荷可能なソリューションを作成するタイムボックスです。