KDDIがデータクリーンルームを活用した「データコラボレーション構想」を本格化させている。これは、同社が提唱するデータ活用の新しいビジョンであり、「データでつなぐ」「データを巡らせる」「データで生み出す」という3軸で、社会や企業に新たな価値を提供することを目指している。
その中核を担うデータクリーンルームという仕組みは、個人情報や機密情報を保護しながら、異なる企業間でデータを共有・分析するための環境になる。KDDIは、データクリーンルームを通じて、さまざまな業界や分野のデータコラボレーションを推進していこうとしている。
KDDIが考えるデータコラボレーション構想
同社は、日本のデータ活用が米国と比べて大きく遅れているという現状に危機感を抱いており、社会課題として捉えている。マーケティング統括本部 シニアエキスパートの山口求氏によると、日本企業はデータを自社内に閉じ込めがちで、国際的な競争において不利になっているという。そこで、KDDIはデータコラボレーションのためのプラットフォームを提供し、他社とのデータの交換や活用を促進することで、そうした状況を変革したいと考えている。
山口氏は「この取り組みは、企業間のデータを共有することで、(その企業の先にいる)消費者のニーズや行動をより詳細に把握することができるという点で、大きな価値を提供している。データクリーンルームを使って、個人のプライバシーを保護しながら、データの活用を可能にしている」と説明する。
「データコラボレーション環境を自社で構築することで、市場の変化に素早く対応し、競争力を高めることができるというのが、この取り組みの戦略的な強みである」(同氏)
KDDIのデータコラボレーション構想には、中部テレコミュニケーションなどのグループ会社だけでなく、資本関係にない提携先企業の参画も呼びかけていく計画も含まれている。第一弾としてABEMAとはデータクリーンルームを使ってデータを接続し、視聴者により良いサービスの提供を目指している。
「ABEMAが持つ視聴データと、KDDIの保有する位置情報などのデータを掛け合わせることで、視聴者の視聴環境に応じて、最適なコンテンツを提案できるような仕組みづくりを進めている。電車に乗っている時や自宅にいる時などのシーンによって、見たいコンテンツの長さや種類は変わってくるはず。それを最適化することで、視聴体験が向上すると考えている」(山口氏)
データコラボレーション構想は、多様な企業との連携によって推進されているが、この取り組みを実現するためには、法律面や技術面についての高度な知識が必要になる。この点について、山口氏は「事業部門とシステム部門の“結集力”がこの仕組みを支えているといっても過言ではない」と強調した。