デジタルサイネージ広告の勝機--看板ではなく「メディア」と捉える - (page 3)

三浦純揮(ニューステクノロジー/ベクトル)

2024-05-07 07:00

移動時間の情報番組「HEADLIGHT」を始めた訳

 2022年10月からは、「知る、買う、出かける。新体験ぞくぞく。」をテーマとし、週替わりでタクシーオリジナルの情報コンテンツを放映するタクシー内情報番組「HEADLIGHT」を放映開始しました。自分の興味・関心の外側にあるような、わざわざスマートフォンで検索はしないけれど、知っておくとためになる情報の発信に取り組んでいます。

 HEADLIGHTという自社企画の番組を持つメリットは数多くあります。冒頭の話にも通じますが、タクシー広告は単なる広告媒体ではなく、メディアであることを各ステークホルダーに認識してもらう狙いがあります。

HEADLIGHTの番組ポスター
HEADLIGHTの番組ポスター

 第4回で詳しくは解説しますが、純広告とは異なる形でユーザーに情報を届けられるので、営業視点でも広告主のニーズが高いです。社内的にも常により良いコンテンツを作るための意識が働いており、それが結果媒体のアップデートにつながります。

 HEADLIGHTは企業のスポンサードによる「有償コンテンツ」と編集部が情報を厳選して取材をする「無償コンテンツ」の2パターンを放映しています。無償で取材した企業の中には、実際に自社の情報がタクシーで流れたことで効果を実感し、後にメディアタイアップ広告の出稿を希望する企業も存在するため、営業戦略の面でも有効な手段です。

コンテンツで場所や空間の価値を向上する

 自社の取り組みを中心にノウハウを紹介しましたが、私がコンテンツ制作において意識しているのは、「いかにその場所の価値を高める情報を提供するか」という意識を持つことです。場所が10割であるデジタルサイネージメディア開発において「場所・空間の価値を向上させること」は、中長期的にメディアを運用するに当たり全ての根幹であり、最も重要なことです。

 場所にはそれぞれ固有の特性があり、その場所に適したコンテンツも場所ごとに異なります。タクシー広告の事例を一例として挙げましたが、例えばバカンが運営するトイレ広告メディア「アンベール」では、トイレを利用する人々の健康意識を醸成するコンテンツを大正製薬と共同で情報発信をしています。

 三菱食品は、スーパーマーケットの生鮮売場を中心に全国約140チェーン、4500店舗の約1万2000台にサイネージを保有しており、レシピ動画サービス「クラシル」を運営するdelyとの提携による「クラシル”storeTV”」の放映を発表しました。

 第1回で言及しましたが、メディアとロケーションは価値を高め合うパートナーであるべきです。そのためには、ハード面でユーザビリティーを向上させるとともに、ソフト面でユーザーの興味・関心を引くコンテンツを企画することで、その場所に適した存在になることができます。

 デジタルサイネージメディアにおいても、単なる広告面ではない、独立したメディアとして、ユーザー属性を理解したコンテンツづくりに継続的に取り組むことで、ユーザー/ロケーションオーナー/広告主から長く愛されるメディアづくりを実現できます。その時初めて、デジタルサイネージメディアとして本来の価値を提供できるのではないでしょうか。

三浦純揮
ニューステクノロジー 代表取締役/ベクトル 執行役員
2018年3月よりニューステクノロジー代表取締役に就任。都内最大級のタクシーサイネージメディア「GROWTH」や日本初のモビリティー車窓メディア「Canvas」などモビリティープラットフォーム事業を中心にメディア事業、クリエーティブ事業を管轄。親会社であるベクトルでは、新規事業の立ち上げ・事業成長に向けた支援も行う。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

マイナンバーカードの利用状況を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]