パナソニック コネクトは6月25日、OpenAIの大規模言語モデル(LLM)をベースに開発した自社向けAIアシスタントサービス「ConnectAI」の活用実績と今後の活用構想を発表した。同社によると、2023年6月~2024年5月の1年間で18.6万時間の労働時間を削減したという。
同社は2023年2月から、(1)生成AIによる業務生産性向上、(2)社員のAIスキル向上、(3)シャドーAI利用リスクの軽減――を目的に、「ChatGPT」をベースとしたAIアシスタントサービスを国内全社員約1万2400人に展開している。
生成AIの活用について、従業員に聞いたところ、1回当たり平均約20分の労働時間の削減につながっていることが確認された。検索エンジン代わりのような単純な質問のやりとりから、戦略策定の基礎データ作成といったものまで、さまざまな活用ケースが挙げられたという。
生成AI導入の目標として掲げていた3点の達成結果は次の通り。
- 生成AIによる業務生産性向上:1年で全社員18.6万時間の労働時間を削減。アクセス回数(12カ月)139万6639回、直近3カ月の利用回数は前年の同期間と比較して41%増
- 社員のAIスキル向上:検索エンジン代わりのような用途から、戦略策定や商品企画などの1時間以上の生産性向上につながる利用が増え、製造業らしい活用(素材に関する質問、製造工程に関する質問など)も増加
- シャドーAI利用リスクの軽減:16カ月の間に情報漏えい、著作権侵害などの問題は発生せず
パナソニック コネクトでは、従業員がConnectAIに的確なプロンプト(命令、指示)を入力できるよう、プロンプトエンジニアリングの観点に基づきユーザーインターフェースをカスタマイズし、日常業務でよく使うプロンプトのサンプルをトップ画面に用意していた。2024年6月17日には新たにプロンプト添削機能を追加し、より具体的なプロンプトを入れることで素早く的確な回答を得られるようにした。
プロンプト添削機能のイメージ
また、2023年9月に自社固有の公開情報を基に回答する自社特化AIの試験運用を全社員向けに実施し、一定の精度で回答できることを確認した。その試験運用の結果を踏まえ、2024年4月からは自社固有の社外秘情報である品質管理規定や、過去に発生した品質問題を元に製品設計時の品質についての質問が可能になった。同機能には、回答結果の真偽を社員自身が確認できるよう、回答の引用元を表示する機能も実装している。
同社によると、サービスはリリース以来、日々の業務で活用されており、回答に対する従業員の評価は5点満点で3.5点という高い水準となっている。今後数年をかけて活用することで、経験者でも判断が難しい設計段階での問題や部品に起因する問題、また製造方法や作業手順の問題について原因の特定を容易にし、手戻りの時間も減らすことで人手不足を補い、より短い時間で精度の高いものづくりにつなげていきたいとしている。
自社特化AIの活用例1
自社特化AIの活用例2
一方で、自社固有の質問や最新の公開情報に回答できないことや、回答の正確性を担保できないことなどが大きな課題となっている。これを解決するために自社データと生成AIの連携を行ってきたが、自社データの整備が非常に重要だと認識。今後は、自社データの整備を構造的に進め、「パナソニック コネクトコーパス」を構築していく考えだ。
また、自社データの対象範囲を人事の研修サポートや社内ITサポート、カスタマーセンターなどの社内サービスにも広げていく。人事ではまず、生成AIが社員に適した研修を提案する研修特化AIの導入を進めている。また、「PowerPoint」や「Excel」、PDFなどの非構造化データに加えて業務システムなどに蓄積された構造化データも対象に拡大を進める。
これによって、より広い業務領域で数値に基づいた正確な回答が得られるようになり、生成AIの業務活用を加速していく狙いだ。さらにデータ整備が整ってきた段階で、個人の職種や権限に応じて回答を行う個人特化AIの導入も検討していくとしている。