ERPは、パッケージのモデルをよく理解した上で、初期の導入を果たすことができれば、2次、3次への展開、あるいは別の事業に展開するときに、非常に有効となる。それがERPの大きなメリットだ。
「ただ、企業のManagerial Accounting (管理会計) の考え方が先進的な場合は合わないだろうし、生産系が非常に複雑で動きが速いのなら、むしろERPを生産に直結しない方がいい」と、ITRのプリンシパル・アナリストである浅利浩一氏は言う。
管理会計が物流や生産計画とほぼ同列に統合できているのであれば、そうしたシステムは残すべきであるという。ERPパッケージの会計系モジュールを生産系に直結すべきでないのは、たとえば何十万点もの部品を扱う生産ラインを持つ場合に、個々のパーツを追いかけても経営の視点では意味を持たないからだ。実際にはデータベースが大きくなり過ぎて、まともに動かないという理由もある。
もっとも、今回の金融危機で欧米の足並みが乱れた国際会計基準であるとはいえ、財務会計の部分についてパッケージを利用すれば、そうした基準にもすぐに対応できる。パッケージを適用してメリットが出やすい業務を見極めることが肝要だ。
浅利氏はERPパッケージの将来について「今後10年でなくなるようなものではない」とする。この先、ERPはどう変化していくのだろうか。この問いに浅利氏は「ビジネスプロセスに関しては、あまり変わらないのではないか」と応える。たとえば、SAP 4.0B (1998年から2000年ごろ) のSAP Business Frameworkの時代から、ビジネスプロセスの考え方自体は、基本的に変わっていないという。
「SAPのAP (アジア・パシフィック) 担当CTOに『変わらないね』と尋ねると、彼は『むしろ変わっていないことが価値だ』と言った。もちろん、製品の作り方やアーキテクチャは変わっているが、ビジネスプロセスのモデルや、プロセスの分け方といった基本的な考え方は、変化にさらされていないのだ」(浅利氏)
ビジネスプロセスは、現実の業務をある視点から抽象化したものである。むしろ、その考え方がコロコロと変わる方が問題ともいえる。