工場の生産革新を手本に、オフィスと開発の革新へ--富士通

聞き手:藤本京子(編集部)
構成:梅田正隆(ロビンソン)
撮影:赤司聡

2006-01-01 02:00

2006年もグローバルな競争力を磨く

 富士通にとって重要なテーマはグローバル化です。ご存知の通り、買収や経営統合などでITベンダーの数が減少傾向にある中、富士通がいかにグローバル市場で競争できるかが鍵となります。単にロジスティックスを作ればグローバルになれるわけではなく、まずは製品そのものでグローバルな競争力を持つことが重要です。そのためには、先進市場のお客様の意見やニーズをいかに吸収できるかがポイントとなります。2005年を振り返ると、製品そのもののグローバルな競争力は一定の水準に達し、今後は製品を売るためのロジスティックスを確立する段階になりつつあると判断しています。

好調だった欧州市場、軌道に乗った米国市場

 地域別に見ると、まず欧州市場はFujitsu Siemens Computersが大変好調で、2005年度の売上高は60億ユーロ〜65億ユーロとなる見込みです。本来、Siemensは欧州の中でも東欧やロシアに強く、欧州の投資が東欧やロシアに向いている追い風も受けています。

 米国市場については、ようやく富士通ブランドが認知されつつあります。特に大手企業ユーザーを中心に、富士通がしっかりした製品を出していると理解してもらえるようになりました。米国において最もIT投資を消費するマンハッタンの銀行や証券会社に当社のサーバが採用されるようになったのもその一例です。また、米国最大のシステムインテグレータであるEDSとの提携は、これからの米国でのビジネスを展開していく上で大きな力となります。単に製品を売るだけでは限界があるため、EDSのSIと富士通のプロダクトの両輪でお客様のニーズに応え、2006年の米国市場に挑みたいと考えています。

アジア市場は上海、北京にPSC開設へ>

富士通 取締役専務 経営執行役専務 伊東千秋氏

 欧州、米国の次はもちろんアジア市場です。2005年には、シンガポールと韓国にプラットフォーム・ソリューション・センタ(PSC)を開設し、以来いろいろな引き合いが来るようになりました。コンピュータも訪問販売から店舗販売の時代になったと感じます。課題は今後、欧州、米国と3極をなす中国市場をどうするかです。富士通のプロダクトビジネスにおいて2006年は中国への進出元年となるでしょう。2006年3月までには、PSCを中国に開設したいと考えています。実際、米国のCIOの方々を浜松町のPSCに招き、280台のサーバが並んでいるのを見ていただくと「凄いね!」と歓声が上がります。カタログではなく実物の訴求力は大きいです。

 欧州、米国、そして中国を含むアジアにて、本当の意味でのグローバル化を達成したいと考えています。日本国内の業態の良いお客様のほとんどがグローバル企業です。そうしたお客様に富士通がパートナーとしてお付き合いするために、富士通自身が世界中どこでも製品を提供できるようにし、メンテナンスが可能な体制にする必要があります。2006年には、このような実態をともなったグローバル体制が整ってくると考えています。

トヨタ生産方式で100億円の製造コストを削減

 富士通の2005年度は「ものづくり」の年でした。まだまだやらなければならないことはありますが、当社の工場は大きく変わりました。景色が変わったのです。2004年からトヨタ生産方式を取り入れた結果、工場にスペースができました。毎週のように景色が変わるのです。従来、定型化した作業をきちんとこなすことを良しとしてきましたが、トヨタ生産方式の活動を通じ、各自が良いと思ったことをやるようになりました。現場は急激に活性化し、設備の並べ替えは現場レベルで実施するようになり、生産性が非常に高まっています。2005年は、製造コストを100億円近く削減できたと思います。もちろんリードタイムもずいぶん短縮できています。

 私自身が感じたのは、トヨタ生産方式の本質はジャストインタイムやカンバン方式ではないということです。工程間のバッファをすべて取り払うのがトヨタ方式です。従来一番良いやり方とされていたのは、ある程度のバッファを蓄え、あるマシンに異常が発生しても全体の工程に影響を与えないようにすることで、当社でもこの方式を採っていました。すべてのバッファを取ってしまうと、当然どこか一部がおかしくなっただけで全体が止まってしまう。全体が止まることは工場にとっての危機ですから、工場全体がリカバリに集中します。集中して問題解決に向かうようになると、止まらなくなるのです。工場全体にプレッシャーをかけることによって止まらなくするというトヨタの逆転の発想はやはり凄い。そんなカルチャーを工場だけではなく会社全体に普及させないと、トヨタのような優秀な会社になれないと思います。

工場の生産革新をオフィスに持ち込む

 2006年の自分自身のテーマは、こうした工場の生産革新をオフィスにも取り入れることです。工場の場合、設備を並べ替えたりすることで、スペースが空いたり、昨日まで5時間かかっていた作業を1時間でできるようになったりと、その成果は見えやすい。ところがオフィスの場合、なかなか工場のように見えるようにはなりません。まず今の仕事を見えるようにし、仕事改革の成果をきちんと評価できるようにすることが重要です。

 もうひとつ、良いきっかけになると思っているのが日本版SOX法です。米国の企業はSOX法の対応に大変苦労しました。「逆にオーバーヘッドが増えた」という声さえ聞こえてきます。しかし、対応しなければならないのであれば、工場の生産革新とリンクさせる形で、現在の仕事のプロセス改革に結び付けられるのではないかと考えています。開発から製造、物流、お客様でのシステム展開、検証に至るすべてのプロセスを見直し、正しい流れに変える。私はこれをSOX法対応の中で実施し、オフィスの生産革新につなげたいと思っています。工場だけではなくトータルな生産性を高め、外部に発注していたものを自ら行い、社内に取り込むことで、業績の改善とコスト削減につなげられるでしょう。

 製品開発を担当する私自身の至近な課題は、開発生産性の向上です。開発に関して日本で最も進んでいるのは自動車業界です。スーパーコンピュータを最も活用している業界であり、シミュレーション技術によって従来30数カ月かかっていた開発期間が、いまや10カ月を切ろうとしています。

 では「コンピュータを製造している私たち自身はどうなのか」という自らへの問いが浮かんできます。もう、汗と涙と努力でがんばれば良い時代ではありません。設計自体をもっとバーチャライズできるはずで、まさにITをツールとしてコンピュータパワーをフルに使わなくてはなりません。富士通自身がスーパーコンピュータを使いこなし、様々な活用法をお客様にご紹介できるレベルになりたい。そう考えています。


伊東千秋(いとう ちあき)
富士通 取締役専務 経営執行役専務
新任幹部社員50人を集め、わざと「プロダクトアウトで開発せよ」と訓示した。「マーケットインが常識だが、3年後のマーケットなど誰にもわからないし、人と同じことをやってもバリューを出せない」というのがその理由だ。個人的な2006年のテーマは、考える時間の確保とダイエット。現在は海外出張の移動時間を考える時間にあてている。旅のお供は7000曲収録したiPod。中国語と韓国語の語学教材も保存されており、眠れない時に活躍する。最近感銘した本は、クリントン政権で財務長官を務めたロバート・E・ルービン氏の「ルービン回顧録」

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