亦賀氏によれば、今後のシステム基盤を考えるうえでのキーワードは「分散+統合」になるという。その意味するところは、ノードが分散して存在することを認め、どのように統合していくのか、ということになる。
システム基盤技術で現在、話題になっているものとしてSOA、仮想化などが挙げられるが、「SOAや仮想化、グリッドには“共通項”がある」(亦賀氏)。その共通項が「分散+統合」だ。分散されたものを1つにするのではなく、統合させることで状況の変化に素早く対応できるのである。
実用化されているデータグリッド
では、企業のシステムとしてグリッドは幻滅期に入ったまま、消えてしまうのかというと、必ずしもそうとは言い切れない。2005年になってからも、大手ベンダーの取り組みは続いている。
たとえば、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は2005年9月に金融業界向けにグリッドを検証できる施設「HP金融グリッドセンター」を開設している。その時の日本HPの説明によれば「日本の金融機関の数社が社内システムの一部にグリッドを導入している」という。
また、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は2005年8月に、肥後銀行(熊本県熊本市)にグリッドの一類型である「データグリッド」のシステムを導入している。データグリッドとは、大規模なデータを処理するためにグリッドを応用するというものだ。肥後銀行はデータグリッドで「融資トータルシステム」を構築している。肥後銀行の同システムでは、既存のデータベースと種類が異なる新規のデータベースの接続に、日本IBMの「WebSphere Information Integrator」(WSII)を利用している。
異機種のデータベース連携に対しては、ベンダーごとにさまざまな手法で解決策を用意している。しかしそれぞれが独自開発によるもので、標準的な技術は存在していないのが実情だ。もちろんWSIIもIBM独自のものだが、ベースとなっているのはデータグリッドの考え方である。ちなみにWSIIは、2005年3月にDB2ブランドからWebSphereブランドに変更されたものだ。
この事例について、亦賀氏は「肥後銀行は、収益力強化とローコストオペレーションを目的として、融資トータルシステムを構築している。そのためにデータグリッドを採用しているが、データグリッドを含むグリッドコンピューティングをビジネス用途で活用した事例は、世界的にも多くは存在していない。この事例は非常に画期的な出来事」と評価している。
さらに亦賀氏は「異機種のデータベース連携を短期間で、しかも低コストで行いたいとする企業は、データグリッドをひとつの手段として検討すべきだろう。また、異機種データベース連携手段として、データグリッドが実用化のレベルにあることを認識すべきだろう」と提言している。