その価格設定も「パッケージ本体5万円、年間サポート15万円」としていたが、ミラクル内外からは「そんな値付けがあり得るのか」と批判されていたという。当時は、米Red Hatが5000円程度でパッケージを売っていた時期だからだ。
エンタープライズ向けLinuxの課題
「ユーザーとしてLinuxを触っていた」吉岡氏だが、Linuxの開発経験のないまま、ミラクルで新しいディストリビューションの開発現場で働くようになる。この頃について吉岡氏は、「ターボリナックスにLinuxのことを教わりながら、試行錯誤を繰り返して、手探りの状態で開発を続けざるを得なかった」と振り返っている。
そんな苦労をしながらもMIRACLEは完成。エンタープライズ向けで活用されることを念頭に「保守性を高めることに注力して」(同氏)開発されていたMIRACLEは、当初からクラッシュダンプ解析やカーネルトレースなどの機能を搭載していた。当時としては先進的なMIRACLEだったが、製品の販売で思わぬ苦戦を強いられた。
当時主流のディストリビューションはRed Hatだ。SIerが構築するLinux活用のシステム構成も、Red Hat製ディストリビューションの上に米企業製商用ソフトをのせるというのが一般的だった。そこからミラクルは「商用ソフトを開発する企業がサポートするディストリビューションはRed Hatだけ」という事実を知らされることになる。そうした状況に吉岡氏は「これでは、プロプライエタリと同じ世界ではないか」と思ったという。
そうした状況を打開するため、吉岡氏は2003年に米で開催されたLinux関連イベント「Linux World」で米企業に「MIRACLEをサポートしてくれるようにお願いしに行った」という。しかし、米企業から冷たい反応が返ってくるばかりだったという。
「『MIRACLEなんかは知らない。サポートするのはRed Hatだけだ』とばかり言われましたね。それに加えて、『日本は魅力的な市場じゃない。むしろ日本企業は、拡大する中国市場をどうするつもりなんだ』と聞かれることも多かったです」(同氏)
こうした言葉をきっかけに、ミラクルは一つの見通しを立てることになる。中国企業とアジアでの標準的なLinuxを開発して、大きな勢力となれば、ハードウェアメーカーもソフトウェアメーカーもサポートしてくれるだろう、という見通しである。そこから共同開発として選んだのが、中国での有力企業であるRed Flagだった。
コミュニケーション不足を英語で解決
Linux開発はすでに経験していた吉岡氏だが、中国企業との共同開発プロジェクトはもちろん初めてだ。やはりここでも「最初は試行錯誤の連続だった」(同氏)というコミュニケーションも今では「4年もたってスムーズにできるようになっている」。