わずか3週間でグローバル展開を実現した階層構造
Dynamics AXのもう1つの大きな特徴は、そのアーキテクチャにある。システム内のコードやオブジェクトが、8つの階層に分けて管理されている点だ。
下位の4つの階層で標準オブジェクトが管理されており、マイクロソフトが管理するレイヤとなる。その上の2つの階層はパートナー向けに公開されているレイヤで、業種向けのテンプレートや帳票ソリューションなどの階層となる。最上位の2つの階層が、導入時に発生したカスタマー要件で追加開発したオブジェクトが入るユーザー用のレイヤとなる。
標準オブジェクトに対してモディフィケーションをかけたとき、下位の階層に影響を及ぼさず、その差分だけを上の階層で持つアーキテクチャとなっている。
そのためバージョンアップの際には、以下のステップを踏む。まず、下位の標準レイヤをバージョンアップする。次に、追加開発したオブジェクトが入っているレイヤをエクスポートする。最後に、新バージョンの標準レイヤに追加開発したオブジェクトのレイヤをインポートする。

青山氏は「カスタマイズが標準レイヤにまで影響してしまい、アップグレードできないERPの問題を解決するために、このような階層のアーキテクチャが考え出された。標準機能である親オブジェクトに、変更を加えるための子オブジェクトを追加していくだけのシンプルな構造であるため、カスタマイズもしやすい。開発の作法に則ってさえいれば、開発工数の削減、バージョンアップコスト削減が実現できる」と話す。
ERPをグローバルに横展開する場合にも、階層構造の利点が出てくる。階層ごとにエクスポート/インポートが可能なため、グローバルで共通の機能は下のレイヤで開発を行い、各拠点に配備する。一方、国ごとの要件に対しては上のレイヤで開発し、それぞれの地域で配備する。
鹿山氏は「ドイツのベーリンガーインゲルハイム社では、北欧4カ国にDynamics AXを横展開した。1つめのデンマークでの導入にはそれなりの時間がかかったが、4つめのフィンランドはわずか3週間で導入できた。4カ国で共通する要件はデンマークで開発済みであり、フィンランド固有の要件を3週間で開発した」と話す。たしかに、ERPの導入として最速の事例かもしれない。
グローバルERPとしては導入/運用コストが低く、かつ、Office製品との緊密な連携などマイクロソフトらしい特徴を持つ製品だけに、日本のユーザーが今後、Dynamics AXをどう評価するのか注目したい。