ある経営者の回想(後編)--事業の主役はP/LとC/F、B/Sはあくまで裏方 - (page 3)

森川徹治(ディーバ)

2009-08-05 08:00

 ただし、一つだけ追記しておきたいことがある。それは、現実の財務情報は経営判断の大きな助けとなるが、それだけでは不十分であることだ。あくまで、経営判断を補完するツールと位置付け、それだけに依存しないことが基本である。「活用すれども依存せず」、これがツールを正しく使うコツと心得ている。

バランス!バランス!バランス!

 たくさんのステークホルダーとのバランスを意識した経営は、初めからできるものではなかった。現在も体現できているとは言い難い。しかし、経営判断の軸としてさまざまなステークホルダーとの関係をB/Sのように意識することができるか否かで、経営という業務への取り組み方も大きく違ってくる。

 事業活動を継続するにつれて、事業に関係するステークホルダーは増える。ステークホルダーの増加は、バランスを取る軸の増加でもある。バランスを取る軸が複雑になると、軸を個々に調整するだけでは不十分になり、バランスを崩すことになる。顧客や社員、取引先、そして株主などそれぞれの満足、業績と信用のバランス、営利活動と社会貢献のバランス、多様な利害関係においてできるだけ適切にバランスを取るためには、バランスの結果が会社にとってどう反映されるかをシンプルに理解することを要するからだ。

 高度にバランスの取れた会社は、長期間にわたり、事業資産の増加を実現している。もちろん、各社各様にさまざまな難局を幾度も乗り越えてきていることだろう。

 しかし、すべての高バランス企業は、長期的純資産の増加という共通項を持つ。言い換えると、長期的に純資産の増加を実現するための経営判断が、結果的に高度なバランスを実現する可能性を持つということである。

 この最も抽象度の高い経営判断軸を、会社より大きな視点で考えると、社会資本の蓄積に貢献するかどうかとなる。真の公器の視点である。ここに至って初めて、本田宗一郎さんの“意志”が理解できるようになるのだろう。会社を社会の一部ととらえ、社会的視点の経営判断軸を持つ経営者がたくさんいる社会は、健全な経済社会となると信じている。

筆者紹介

森川徹治(MORIKAWA Tetsuji)

株式会社ディーバ代表取締役社長。1966年生まれ。1990年中央大学商学部卒。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)入社、経営情報システムなど企業情報の活用に関わる多数のプロジェクトに関わる。1997年、株式会社ディーバを創業。以来、連結会計システムをはじめ企業の持続的な成長を支援するグローバル経営会計情報システムの創造と普及に取り組んでいる。

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