日系グローバル企業の悩み:「経営できる人材」をどう確保すべきか

田中好伸(編集部)

2009-08-07 19:52

 アビームコンサルティングは8月5日、グローバル企業での人材管理の現状と課題、今後の取り組みについて聞き取り調査を実施、そこから分かった人材管理の在り方に関する考察を発表した。

 これまでの日系グローバル企業の拠点拡大は、日本国内で蓄積された経験やノウハウから“ベストプラクティス”を築き上げ、そのベストプラクティスを世界に展開するという形で、グローバル市場での競争を勝ち残ってきた。その代表格がトヨタ自動車だ。

 こうしたベストプラクティスを世界に展開するという方法論を取っていることから、トヨタをはじめとする自動車メーカーなどの日系グローバル企業は、日本にある本社中心、日本人中心の管理が行われてきている。つまり、日本の本社から、米国や欧州などの海外拠点に日本人の経営幹部が配属されるということが一般的となっていた。

 しかし、そうした、これまでのパターンが通じなくなっているのが現在の状況だ。というのは、たとえば中国やインドといった新興国市場が急成長していることから、その市場に拠点を開設しても、その拠点を経営できるだけの能力を持った人材(経営人材)が不足しているという事態に直面することになる。

 また、日系企業が事業拡大するために海外企業を買収するという事態もここ数年起きていることだが、買収後に事業全体を束ねる役目の“グローバル本社”が確立されていないという課題も意識されるようになっている(ここで言うグローバル本社とは、経営リーダーのチームと、それらを支援するスタッフ部門を指している)。

 こうした状況では、企業の事業における最高の意志決定機関である取締役会が、経営のグローバル化に対応できていないという問題をはらむことにもつながっている。今回のアビームコンサルティングの調査は、そうした課題を解決するためには何をすべきかという問題意識が背景にある。

 調査は、東証一部上場で売上高1000億円以上、海外売上比率20%以上の日系グローバル企業20社と、日本に進出している外資系グローバル企業2社に聞き取りで行っている。計22社中18社が製造業、4社が非製造業。聞き取り調査の対象は、人事または経営企画の責任者だ。

 聞き取り調査をまとめると、日系グローバル企業が“世界で勝てる組織”になる際に人材での課題が浮き彫りになったと、アビームコンサルティングは説明している。

日系グローバル企業は4つの段階に分類

 調査ではまず、日系グローバル企業は“権限”と“機能”の分散状況に応じて、「分権化」「分散化」「二元化」「ワン・カンパニー」――という4つの段階に分類できるとしている。ここで言う権限とは、たとえば事業部が自由に決裁できる状態を指している。対する機能は、研究開発や製造、販売、サービスなどだ。

 日系グローバル企業の最初の段階である分権化は、海外子会社を設立して一定の権限を委譲しているという構図だ。分権化の段階では、海外子会社をまとめるための地域統括組織が設置されることもある。2番目の段階である分散化では、海外企業に対する合併買収(M&A)や事業の本社機能の海外への移転などが行われており、製造や販売、サービスなどの機能が世界各地に分散されている状況だ。

 3番目である二元化では、日本の本社にたとえば国際事業部といった形でグローバルのオペレーションが統合されていることになる。この段階では、日本国内と海外が2つに分けられている。そして最後のワン・カンパニーは、分散した権限と機能が有機的に統合されている段階である。ワン・カンパニーでは、本社と海外子会社がバーチャルな一つの企業として全体最適化され、機能している状況だ。

 今回の調査での日系グローバル企業を4段階で見てみると、分権化35%、分散化41%、二元化12%、ワン・カンパニー12%となっている。この結果を見て、アビームコンサルティングは、「権限と機能が分散している企業が76%、有機的統合に進んでいる企業が24%と少数」と説明する。つまり、日系グローバル企業は、グローバルな経営体制の確立途上にあるということを示している。

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