第12回目の「あったらいいな」は、デルの社内慣習となっている1対1のミーティング「1×1(ワン オン ワン)」についてです。デルは、独自の経営モデル「デルダイレクトモデル」によって成長を遂げ、パソコン業界に革新をもたらしたことはよく知られています。この通称「デルモデル」の根底にあるのは、同社の「顧客志向」という企業理念であり、顧客との「ダイレクトな関係」を築くビジネスという発想です。そのダイレクトな関係は、社内でも自然に築き上げられていました。
デルモデルから発展したダイレクトな関係の大切さ
問題が起こる前に解決しやすい度 | ★★★☆☆ |
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フラットな関係で会話ができる度 | ★★★★☆ |
普段の積み重ねが信頼関係を築く度 | ★★★★★ |
楽しむ時は楽しんじゃう度 | ★★★☆☆ |
いつでもアイディアや意見が出せる度 | ★★★★☆ |
デル 人事本部ラーニング&デベロップメント シニアマネージャである加島一男さんにお話を伺いました。
米テキサスに本社を置くデルは、1984年の創業当時から「顧客主義」を貫き、そのひとつとして打ち出してきたのが、直接販売と受注生産を組み合わせた「デルダイレクトモデル」、通称「デルモデル」でした。この「顧客からのオーダーを受けて、外部サプライヤーから部品を調達して組み立てたカスタマイズ製品を、流通を介さずに直接販売する」という仕組みは、現在存在する数多くのインターネットのダイレクトビジネスの先駆けとなったものです。
加島シニアマネージャは、「デルの『ダイレクト』な関係を大切にする姿勢は、顧客やパートナーとの関係はもちろんのこと、社内においても大切だという意識でいます。社員は、日頃から気負うことなくダイレクトに意見交換しています。これはビジネスを円滑に進めていく上での大きな強みとなっています」と語ります。
デルでは打ち合わせや会議以外でも、社員同士の意見交換が当たり前のように行われる慣習があり、それを「1×1」と呼ぶのだそうです。1対1の対面式で会議を行うという意味の「one-on-one meeting」や「one-to-one meeting」は、米企業ではたまに耳にする言葉ですが、日本ではあまりなじみがありません。デルの1×1とは一体どのようなものなのでしょうか。
信頼関係を築くための非公式制度
「デルで行われる『1×1』とは、その名の通り社内の人間が1対1でざっくばらんに話しましょうというものです。定期的に行われているものでは、上司とメンバー(部下)の1×1があります。一般的に他の会社では、社内で上司と個別に話をする機会というのは、年度初めの目標設定と年度末の評価の時という、大きく年に2回程度だと思います。どちらかと言うと多くの方は、上司と個室で話すということにあまり良いイメージを抱いていないのではないでしょうか。デルの1×1では、業務についての話題はもちろん、自分のキャリアのことやチームについて、また家族や趣味などのプライベートなことなど、さまざまなトピックについて話します」と、加島シニアマネージャは説明します。
1×1は、公式な会議とは別に、さまざまなトピックについて自由に語る「場」として設けられています。上司とメンバーとの1×1は、2週間に一度、30分程度といったように定期的に行われていますが、そのほかにも、直属の上司ではなくさらにその上の上司とで行われる「スキップ1×1」や、会議前の事前ヒアリングや情報交換などを目的として業務上かかわる相手と実施する1×1など、さまざまな1×1が社内に存在しています。
加島シニアマネージャの場合、自身の上司はシンガポールオフィスにいるため、2週間に一度電話による1×1を行い、自分の部下に対しては、社内にて対面で1×1を実施しているそうです。内容については、ただ何となく会話するわけではなく、事前にどちらからの要望や提案によってトピックを選んだり、必要に応じてアジェンダを用意して行うとのことです。
加島シニアマネージャは、1×1のメリットについて「何か問題があった時や、社員の様子がおかしいなと思ってから声を掛けるのではなく、普段のさまざまな会話から状況を想定しておくことで善処できることがあるという点です。仕事も含め、さまざまな角度から深く相手を知ることが信頼関係にも繋がっていきますしね。大勢の前で言いにくい仕事関係のことも1×1であれば伝えやすいですし、意思疎通のスピードが速くなるのはもちろん、情報が曲がって伝わることも避けられます」と話します。
1×1は、デル社内の公式な制度ではなく慣習的に行われてきましたが、米国本社でも同様に行われているとのこと。例えば、本社から上役が来日した場合でも、通常の会議以外に、必要があると思う社員が1×1を申し込んで設定することもあるといいます。