1月11日、InformationWeek誌に「Who Is Dell?」と題する辛辣な記事が掲載された。記事はDellによる最近のPerot Systems買収における戦略性の無さを批判し、Dellが企業としてのアイデンティティを喪失していると指摘する。
最近、ITビジネスの領域では、Google、Apple、Microsoftの3社が頻繁に取り上げられるが、かつてビジネスモデルの革新を担ったDellが取り上げられることはない。一体何が変わったのだろうか。
業績の悪化
実際のところ、昨年11月下旬に発表されたDellの第3四半期の決算において、売り上げは前年同期比15%減、利益は同54%減と報じられており、非常に苦しいことは間違いない。
PCやサーバ分野での優位性を競合他社に奪われつつあるなか、エンタープライズ領域のサービス企業であるPerot Systemsを買収したことが、IBMやHPの後追いとも写り、InformationWeekでも批判的に取り上げられたのだろう。
コモディティ化を逆手に取った栄光
一般的には、コモディティ化から逃げるために研究開発を続けるものだが、それを敢えて止めたのがDellの過去の成功要因である。PC領域は標準化され、コモディティ化するのであるから、研究開発をしてユニークな製品を作るのではなく、コモディティ化した部品を効率的に組み上げることを強みとするという判断をしたのである。
つまり、コモディティ化を逆手に取って成功したのがDellであった。
PCで成功したDellは、2000年代前半にはプリンタ、テレビ、デジタルオーディオプレーヤーなどさまざまな分野に進出した。その当時はDellが参入すること、即ち、その領域ではすでにコモディティ化が始まっていることと受け止めることもできた。グローバルソーシングの活用、BTOといわれる在庫を最小化する受注生産方式など、Dellは低コストの受注生産プロセスを最大の武器とした。
変わり行く競争レイヤ
しかし、2000年代を通じてグローバリゼーションは急速に進展し、その中でグローバルソーシングは一般化、Dellの受注生産プロセスそのものは競争力を失って行く。
そして、ウェブを通じたサービスモデルの進展により、競争のレイヤ自体がPCというハードではなく、ウェブ上のサービスへ移行し、PCのレイヤはネットブックに代表されるように、さらに低コスト化が進むことになる。そして、ウェブを通じたサービスという形態が一般化すると、今度はエクスペリエンスへと、さらに競争のレイヤが上がることとなる。
具体的にはどういうことか。コンシューマー向けのITビジネスをPCという商品からサービスへと転換させたのは、Googleに代表されるWeb 2.0系企業である。
消費者の関心事はローカルで作業を行うことから、ウェブ上でのサービスの活用へと移っていく。そして、そのサービスをエクスペリエンスへと引き上げたのがAppleだ。その間Dellは、商品のレイヤに留まったために、IT領域の革新の流れに乗り損なったのである。
エンタープライズ領域に活路はあるか
Perot Systemsの買収に見られるように、Dellはエンタープライズ領域のサービスビジネスへの意欲を示している。
こちらもインドや中国などの競合が力を付けてきており、Dellが培ってきたサーバ領域でのノウハウなどを活かせるかがポイントとなる。まだ新たなDellのアイデンティティが明確になるまでには時間が掛かるかもしれないが、次なる革新を期待したいところだ。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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