ナレッジマネジメントの現状と今後
情報共有とナレッジマネジメント。どちらも多くの企業が長年懸案とするテーマだが、日本での取り組みは現在どのようになっているのだろうか。
アイ・ティ・アール(ITR)が2009年12月に発表した、「IT投資動向調査2010」では、主要なIT動向に対する実施状況の経年変化を、2005年〜2009年までの5年間を対象にグラフで比較している。そのひとつ、「情報・ナレッジの共有/再利用環境の整備」では、「すでに実施した」と答える企業が2割前後のまま推移している一方で、「1〜3年以内までには実施したい」と考える企業も約5割前後で推移している。これはどういうことなのか。
「2001年にIT投資動向調査を開始して以来、ナレッジマネジメントは一貫して進展が見られない」と語るのはITRのシニアアナリストである三浦竜樹氏だ。ECM(エンタープライズコンテンツ管理)やコラボレーション基盤、ナレッジマネジメントなどを専門とする同氏は、企業の多くがナレッジマネジメントを常に課題と考えつつも、セキュリティやコンプライアンスへの対応が優先されたことで、対応が常に先送りされている可能性を指摘する。
ただし三浦氏は、2010年以降はナレッジマネジメントへの環境整備が整い、投資が増えると見ている。その根拠として、2007年から続いてきた日本版SOX法などの法令対策や内部統制の強化が一段落したことに加え、2008年後半に起こったリーマンショック以後、国内のIT投資もその多くが凍結されたが、その大規模な案件がなかった時期に社内の情報やナレッジの棚卸しが進み、ECMなどの導入の素地が整いつつあると分析する。
日本の企業がナレッジマネジメントを苦手とする理由はまさにそこにある。三浦氏は3つの要因を指摘する。1つは、日本企業は情報の整理がヘタなこと。IT部門の人材不足という理由も否めないが、業務部門と協力して情報の棚卸しやナレッジ共有のための下地を整えることができていないことが多い。日本のコンテンツ管理ツールの普及率が欧米に比べ極めて低いのも情報の棚卸しができていないことが原因だという。
2つ目は、個人情報保護法の施行以降、情報はなるべく外に持ち出さないという風潮が強まったこと。海外のリサーチャーやアナリストは、しきりにリアルタイムコラボレーションなどの情報共有、活用のメッセージを唱えるが、日本のコンテンツ管理は情報を無断で使用できないように制限するIRM(Information Rights Management)のような考え方が好まれる。
そして3つ目は、日本独特の「遠慮」の文化だ。リアルタイムなナレッジマネジメントを実現するためには、リアルタイムなコミュニケーションも重要となるが、ユニファイドコミュニケーションでチャットやビデオ会議システムを導入しても、またはノウフー(know who:特定の知識やノウハウを持った専門家やエキスパートを探し出し暗黙知を活用するデータベース)があっても、日本人は初対面でいきなり質問することに気が引けるようで、あまり活用が進まない。
「人に属するナレッジのリアルタイムな共有を進めるには、ソリューションの成熟度とは別に、既存の文化からの脱却も視野に入れなければならない」(三浦氏)