前株? 後株? そんなことがどうして大事なの?
ここまで見てきたデータの中で、データ活用を考えるときに最も重要なデータは何だろうか。たとえば「先月、あの製品がよく売れた理由は何だろう」「会社の利益に貢献してくれる顧客を調べて手厚くフォローしたい」と考えたときには、複数のアプリケーションからデータを集めて横断的に分析しなければ、その答えを得られない場合が多い。そうした分析工程において、分析精度を左右するのがマスタデータだ。
企業では、かつて業務部門ごとに業務専用のアプリケーションが導入され、その業務にシステムを最適化してきた歴史がある。そこでは、アプリケーションごとに固有のマスタデータが定義されており、他のアプリケーションと共有されることはなかった。そのため、先に述べた「主語」、つまりマスタデータの表現が、アプリケーションごとに異なっていることがあり、実際には同一の顧客であるけれども、業務部門が異なると別の顧客として識別されるといったことが発生してしまう。
たとえば登記名で「株式会社芝田エンタープライズ」という顧客があったとしよう。正式な社名は「株式会社芝田エンタープライズ」だが、あるアプリケーションで「芝田エンタープライズ株式会社」と誤ってデータ登録されていた場合、一部の実績が別の会社のものとして識別されてしまうといったことがおこる。こうなると、この会社がたいへん重要なお得意様であったとしても、分析の基となるデータの信頼性、品質が劣るために、正しい分析結果を導き出すことがたちまち困難となる。
こうした現象の根本的な問題は、複数の業務アプリケーション間で「信頼できるマスタデータ」を共有できていないことだ。したがって業務部門(業務アプリケーション)を越えたデータ分析は、無理があるということだ。
もっとも、これを読んでいる皆さんが勤める会社では、すでにマスタデータがきちんと統合されていて、信頼できるマスタデータに基づいたデータ分析が可能なのかもしれない。この点については、問題意識として会社の先輩に確認してみてはどうだろうか。ただ、先にマスタデータを「あまり変化しないデータ」と書いたが、経済環境の変化、企業活動の多様化、制度の変更によっては、マスタデータは変化する可能性があるものだとも認識しておこう。
これから皆さんも様々なデータを業務アプリケーションで次々と処理するようになるだろう。そのとき「データ活用」を意識して、正確なデータ入力を心掛けていただきたい。先ほど例に出した「前株」「後株」の重要性については、先輩社員から口うるさく注意されることがあるかもしれない。それは、お得意様に対する礼儀というだけでなく、蓄積されるデータの品質や信頼性を高めるという点で、自社の利益にもつながることだと肝に銘じてほしい。
今回は、企業におけるビジネスデータ、とくにデータ活用におけるマスタデータの重要性について考えた。次回は、BIの起源である「インテリジェンス」について見ていこう。