先日、「Wesabe」という老舗のオンライン家計簿サービスがシャットダウンされたことを伝えた。それからまだ2週間ほどしか経っていないが、今度は「Quicken Online」がシャットダウンされるという話である。
Quicken Onlineを運営するIntuitは、それこそ家計簿ソフトの老舗であり、オンライン家計簿を提供するmint.comを2009年に買収した。当初はQuicken Onlineとmint.comの統合を目論んでいたようであるが、技術的に困難であることから、結局Quicken Onlineを捨てることにしたようだ。
結局、米国における家計簿ソフトは、無償化、オンライン化の流れが主流となりつつあり、しかもサービスの数も徐々に淘汰されて減少しつつある。するとどうなるか。より多くの家計簿情報が特定のサービスプロバイダーに集まるようになり、そこに蓄積される情報の価値がどんどん高まることとなる。
銀行もオンライン家計簿サービスを提供しているが、そこにあるのは基本的には、その銀行の口座に関わる情報である。アグリゲーションの機能があっても、顧客がどこまでそれを活用しているかは判らず、顧客の金融資産の全体像を掴むのは容易ではない。
それに対し、そもそも税務申告のニーズから始まっている家計簿ソフトの領域では、ユーザーは全金融資産の把握に努めることとなる。また、無料のオンライン家計簿サービスは、Wesabeのように、銀行に任せるのではなく、自ら金融資産をコントロールしようという意志の下に発展してきたという経緯がある。それゆえに、銀行とは別に、全金融資産を把握するために、オンライン家計簿サービスを活用するというのは自然な流れである。
本来であれば、銀行はすべての金融資産を預けてもらい、顧客あたりの収益性を高めたいはずなのであるが、無償で提供される家計簿サービスにその座を奪われ、その運営のために広告費やマーケティング費用を逆に支払わねばならない状況にある。こうした状況の改善するには、米国の金融サービスが改めて顧客からの信頼を回復させるしかないのだろう。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。