会議の場においてメンバーが意見を戦わせたかどうかはさておき、ベンチャー企業による突然の発案が承認されるわけはないはずで、会議が始まるまでにメンバー間での意見交換を終えていた、と考えるほうが妥当だろう。
そしてもう1つが、標準化プロセスそのものは企業にとって魅力がないこと。のちにわずかな修正を加え「ISO-9660」として国際標準規格化されていることからしても、ハイシエラフォーマットの重要性は認識されていたと考えられるが、営業上の数字に直結する案件ではなく、場にはそのような雰囲気もない。決まるべくして決まるところにランディングし、その結論を尊重しよう、という様子をうかがうことができる。
今回、1990年代にはXML 1.0にRELAX NG、現在ではOOXML(Office Open XML File Formats)やEPUBなど、数多くの標準化プロセスに携わった人物として知られる国際大学フェローの村田真氏に、標準化の実情に関する話を聞く機会をいただいた。先日、EPUB 2.1世界言語対応のリーダーに就任したばかりという事情もあり、まずはEPUBに関する話題からうかがうことにしよう。
海上:どのような経緯でEPUB標準化プロセスに関与することになったのですか?
村田:JEPA副会長の下川さんから依頼されたことが、直接のきっかけです。EPUBのことはもちろん把握していましたし、RELAX NGとNVDLを使用することも知っていましたから、興味深く見ていたのですが、2009年末あたりから急に注目されはじめましたよね。そして年明けにJEPAから声がかかり、では引き受けましょうか、と。今年1月あたりから、高瀬さんらJEPA EPUB研究会のメンバーに協力いただき、必要な事柄を4月1日リリースの「EPUB日本語要求仕様案」にまとめたわけです。
その仕様案を、IDPFの改訂責任者であるMarkus Gylling(※)さんに持ち込みました。顔をあわせたのは、直前に行われていたOOXML SC34ストックホルム会議が初めてなのですが、彼は私のことをよく知っていたそうで。これはおそらく、私が以前RELAX NGなどの標準化作業にあたっていたからで、IDPFの他のメンバーには彼が連絡したのでしょう。
※:DAISYコンソーシアム技術開発部長。DAISY標準規格のほか、IDPFにおいてEPUBの改訂責任者の任にあたる。
海上:今回のEPUB 2.1世界言語対応の作業は、どのようなことから着手されました?
村田:コンタクト先探しから始めました。縦書きに関連する国と地域、具体的には日本、中国、韓国、台湾、香港とで連携して動きますから、事前に合意を取り付けなければなりませんので。
たとえば、台湾にコンタクトしたときの話。台湾のEPUB仕様書に掲載されたウェブサイトにアクセスし、トップドメインにあったアドレス宛に連絡を試みました。そうこうしているうちに、台湾の企業からIDPF宛に連絡があり、ようやく誰に話をすればいいかわかったというわけです。
誰がその作業をしたか、ですか? もちろん私1人ですよ。
(続く)