終わりのない“KAIZEN”を生産現場から全社に拡大--リコーユニテクノ(後編) - (page 2)

田中好伸(編集部)

2011-02-25 09:00

作業日報の業務時間を70%短縮

 それではワンクリ導入は具体的にどのような効果をもたらしたのだろうか。ワンクリにラインの作業日報を入力すると、当日までの生産予実績、ライン別の能率差異や出動率推移などのグラフにデータが即座に反映されるようになっている。正常か異常かがひと目で判るので、異常値のグラフの値をクリックすれば、詳細な情報にドリルダウンして確認できる。異常の原因へのアクションが素早くとれるのである。

 こうしたワンクリの情報は、生産ラインのすぐそばに設置された大型モニタに表示され、ラインの担当者は状況をリアルタイムに把握することもできるようになっている。「ワンクリは、ほぼ毎日受け入れている工場見学で、会社としてのひとつのKAIZEN事例となっている」(鍋田氏)という。

 これまで月末に手作業(Excel集計)で行っていた作業日報の集計は、ワンクリで自動化されている。全ライン合計で月間238時間かかっていた作業日報にかかわる業務時間を70時間に短縮させている。つまり、時間を70%も短縮させることに成功しているのである。「以前は30分~1時間もかかっていた作業日報は3分に短縮されている」(馬場氏)という。

 ワンクリには基幹系システムから月間で40万件程度のデータが蓄積されているという。データ量が多いためにExcelやAccessでは抽出、集計できなかった情報もDr.Sum EAであれば数秒で処理できるようになっている。

 大鳥居氏は、ワンクリの開発を担当。ライン作業日報の最大のポイントとして「操作性を画一化するために、必要な機能のすべてを1つのボタン(機能)に集約させたこと」を挙げている。見た目はシンプルだが、1つのボタンの裏では、バカヨケ(作業者のミスがあっても、工程内で即座に気付くような仕組みや機構を組み込むこと)や多くの処理が行われているという。

鍋田利夫氏 経営管理本部本部長を務める鍋田利夫氏

残業を肯定するのはおかしい

 ワンクリの導入では、ある数値目標を立てている。それは「間接業務である作業日報関連業務から1人の活人化を図る」(鍋田氏)というものだ。この目標は達成されており、創出された人員は新規付加価値の創出業務で活躍している。現在は「全社のワンクリKAIZENにより、さらに2人を活人化することを目標にしている」(鍋田氏)と、効率化をより進めようとしているところだ。具体的には経営戦略、人事、経理部門や購買部門などの情報共有化、業務効率化へと拡大を図っていると鍋田氏は説明している。

 このような全社横断型の効率化KAIZENを、2008年のワンクリ立ち上げ当初から狙って進めており、鍋田氏は「残業があるということは問題解決のチャンスであり、残業ゼロを目指している」と業務効率化の意味を強調している。

 今後について馬場氏は「ワンクリでやりたいことはまだまだたくさんある」と意欲を見せている。たとえば経営管理部門向けに「業績シミュレーション」、生産管理部門向けには「生産計画シミュレーション」などを構築したいと説明。このようなシミュレーションシステムを導入することで、「従来、属人的に勘や個人ノウハウに頼っていた業務を効率化させるとともに技能伝承にも活用したい。言い換えるとノウハウのいらない誰にでもできる業務にしたい」(馬場氏)という。

馬場保氏 経営管理本部経営戦略室ITS推進グループリーダーを務める馬場保氏

トップの理解と現場視点

 ワンクリの導入で、リコーユニテクノの業務は大幅に効率化されている。こうした業務改革の成功事例の秘訣はどこにあるのか。秘訣のひとつとして馬場氏は「全社展開に経営トップを巻き込む」ことを挙げている。

「もともとリコーに在職していた経営トップがシステム化に興味を持ってくれたことが大きい」(馬場氏)。

 リコーユニテクノの経営層は、ワンクリを全社的な業務KAIZENの有効なツールと理解しており、経営層自らがワンクリの全社展開を積極的に支援してくれたのである。

 そしてもうひとつの成功要因は「現場視点で進めた」(鍋田氏)ことだ。生産や購買などの現場に精通している馬場氏や大鳥居氏がプロジェクトの中核として推し進めたことで、プロジェクトは成功したと言える。ITを活用したKAIZENは現場を知らない人員だけでやっていたら、成功する確率はより低かったと確信している。

 最後に、ワンクリもKAIZEN活動同様、常に進化を続けている。いつまでたっても完成することはないだろう。“KAIZEN(ワンクリ)に終着駅はない”のだから。

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