経営へのインパクトを弱めるIT投資
「ガートナーってベンチマークってやっているじゃないですか」
「以前、ウチもやってもらったね」
「ま、開発の場合には、類似案件を持ってきて比較するんですけど、なんと最大案件って、十中八九、日本の案件なんですよ」
「えっ、どういうこと?」
「ガートナーのベンチマークデータの中には、錚々たる世界の企業のデータが結構入っています。そうした中で、ひとつひとつの開発案件の大きさを見ると、なんと日本企業の案件が群を抜いて大きいんですよ」
「日本企業の案件は大きいってこと?」
「そうです。きちんと言うと、最大案件が大きいってことです。別の言い方をするならば、同じ10億円を使う場合にも、海外では5000万円案件を20本やっていることが多いのに、日本企業は8億円と1億円と5000万円を2つって感じでやっているってことです。ま、一概にそうだとは言えないんですけど、そういう傾向があります」
「何か、考えさせられるなぁ……」
「そうなんです。まずは、先ほど議論にあった、経営へのキャッシュ負担の平準化への貢献度が全く違います。たとえば、キャッシュや収益が苦しいから……といった場合には、小さい案件がたくさんあると、そのコントロール、しやすいですよね。2個は来年に回して……とか。でも、日本の場合、先ほどの例で行くと『8億円どうする?』って話に収斂しやすい。8億円とか、そう大規模ではない場合には、経営へのインパクトも知れていますが、これが数十億円、数百億円になると、そのインパクトは計り知れない」
「なるほど……」
費用対効果を測りにくい大規模案件
「それと費用対効果の問題もあります。IT投資管理の取り組みをやっていて、痛切に感じることなんですが、大規模案件には投資管理上3つの問題があります」
「つまり?」
「一つ目は、そもそもそんな大規模投資に見合う効果なんて出ることが極めて稀ってことです。効果の問題も我々もかなりノウハウをためてきていますが、数十億円、数百億円の投資に見合う効果を定義することは、定性的なものを絡めないと単純に正当化することは難しい」
「本当のところ、そうだよねぇ…でも、どうして、そういうことが起こるの?」
「まずは、今までIT化がゼロという領域の方が既に珍しいですから、劇的な効果というのはそもそも出てこない。そういう意味で効果は限定的にならざるを得ない。そこに、いろいろなものを詰め込みすぎるんです、一つの案件に。ITコストの削減であったり、ユーザー業務の省力化であったり。さらには、管理者の管理力向上まで入る」
「う~ん」
「しかし、これ、何かというと、経営の立場から見れば、何のために投資をするのか、総花的で複雑で良くわからないってことになります。総額で、どこに効いたのか、わからなくなるんです」
「確かになぁ~」
規模の不経済
「二つ目は、規模の不経済なんです。多くの人が誤解しているんですけど、日本のITの開発では、規模が大きくなればなるほど、生産性が低くなるんです。規模の経済性というのが働いていない。この逆マジック、ちょっと考えればわかるんですけど、規模が大きくなれば、その分だけテストのケースが増えますよね。しかも、乗数的に」
「あ…」