「それだけでも投資増大なんですが、ユーザー、管理者などのコミュニケーションも合わせて乗数的に増大する。参加する開発要員も増大する。しかも規模が大きいですから、とにかく人を集める、かき集めてくる。頭数を揃えることが目的になっちゃいます。でも、とにかく集めた人ですから、所詮はさほどの戦力にはなりません。生産性も上がらないし、むしろ手戻りも山ほど作ってくれる。そうやって、投資が膨らむ。どれだけ、ボーっとしている人間の費用払っているか、もうイヤと言うほど見てきました」
「うぅん…痛いなぁ…」
「最後の問題は、失敗の確率が上がるってことなんです。投資のステークホルダーが複雑で、やるべき内容が盛り沢山で、規模の不経済が働く取り組みはそもそも失敗しそうな匂いがしませんか? ガートナーのベンチマークを分析していて思うのですが、開発コストの増大は生産性などの原因で10~20%くらい上下はしますが、失敗というものが起きてしまうと、一気に数倍のコスト増要因になってしまいます」
「…………」
「つまり、小さい案件をたくさんやるようなIT投資管理になっていれば、一つ一つの案件の効果は明快で、生産性は高く、失敗することもほとんどないんです。経営から見て、キャッシュの平準化やリターンの管理・把握もやりやすい。でも、一気に社運をかけるような大規模案件を“戦艦大和”型でやることは、経営にとっては害が多い……というかリスクが高いのにコントロールもできない」
「ま、そりゃ、そうだわな。でも、そこに至るまでの条件が壁だよねぇ。でも、IT投資の平準化が行われているとすると、欧米企業では投資の波はないってこと?」
投資の波をなくすメリット
「そうです。有名な企業はそうなっているって考えて頂くといいですね。投資の上げ下げが起こるようなことを避け、経営全体の成長率を少し下回るくらいの成長率でIT投資を逓増させ続けるグッドサイクルを作り上げています。10%成長をし続ける企業ならば、5%ずつIT投資を伸ばしているって感じですね」
「あぁ…わかるなぁ、それ。同率だったら気が引けるけど、伸びを下回るくらいの伸びでやっていけば、理論上は成長率を後押ししているってことが言えるからね…」
「ある業種で調べたんですが、人員は減っているんですが、一人当たり売り上げは増加している。人を減らして、ITを増やして、成長を達成している。そういう業界もあります」
「理想だなぁ……でも、そこに至る道筋が問題だよねぇ」
「そうですね。仰る通りで、従前から言っているような、モダンなITの構成・構造と、モダンなIT部門のデリバリモデルと組織がないと、実現しませんね」
「そう、どうやるか…それが問題だね」
リストラクチャリングとリエンジニアリング
「そうですね。今日、何度も部長暗くなるから、ちょっと、雰囲気を変える質問してみましょうか?」
「何?」
「僕たちコンサルタントの目から見て、企業改革って何種類あると思いますか?」
「おっ、いいねぇ、そういう哲学的な質問。ちょっと待ってね…。2個かな」
「おぉ! ちなみに何と何ですか」
「戦略と戦術」
「うぅん……それはそれで、正解ですね。ほとんど正解なんですけど、僕の考えていた答えは少し違っているんです」
「ほぅ。何?」
「リストラクチャリングとリエンジニアリングです。すなわち、財務体質を良くするように要らないものをそぎ落としていくというものと、成長軌道に乗るために時代や顧客など新しい環境にあった企業能力を作り直すものの2つです」
「うぅん……そうかぁ。ま、この答えが正しいかどうかの議論は、今度飲みながら話をしようか。でも、ここでこれを出してきたってことは、ここにどうやるか……のヒントがあるってことだね」
「そうなんです。どストレートな言い方をすれば、やっぱり最初は、リストラクチャリングからだと思っています」
(続きは7月14日に掲載予定)
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宮本認(みやもとみとむ)
ガートナー ジャパン株式会社
コンサルティング部門マネージング・パートナー
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。
編集:田中好伸
Twitterアカウント:@tanakayoshinobu
青森生まれ。学生時代から出版に携わり、入社前は大手ビジネス誌で編集者を務めていた。2005年に現在の朝日インタラクティブに入社し、ユーザー事例、IFRS(国際会計基準)、セキュリティなどを担当。現在は、データウェアハウス、クラウド関連技術に関心がある。社内では“編集部一の職人”としての顔も。