ストーリーで考えるIT戦略の本質(2/5)
(編集部より:前回の「スーパークールビズからIT戦略を考える」では、ITコンサルタントである筆者の宮本認さんと情報システム部長は、部長はどんなファッションをしたいのかで盛り上がりました。その真意は、IT戦略がどうあるべきなのかを探ることでした。さぁ、いよいよ部長との会話はIT戦略の真髄に迫ります。すべてフィクションですが、実際のコンサルティング現場で行われている会話にかなり近いものです)
まずは「会社にとってのITとは?」から
「お疲れ様でした。部長、どうでした?」
「何か買うべきものがはっきりすると、買いたくなるね」
「そうです。やるべきことがはっきりすると、やりたくなるんです。前置きが長かったんですけど、今、部長に考えて頂いたことをITに応用したものが、最近我々が進めているIT戦略の立案の仕方なんです」
「何かそんな気はしていたよ。ちょっとおさらいをしてみよう」
「まず、最初に僕、何聞きました?」
「“セレブかどうか”を聞いてきたね」
「えぇ、そうです。それと、クールビズで部長が狙いたいイメージを伺いました」
「あぁ、“センスのいい常識人”ね」
「これ、実は部長にとってのファッションの哲学を聞いているんですね。言うなれば“部長にとってのファッションとは”」
「まぁそうだね。セレブっぽくもないけど、年相応、立場相応に恥ずかしくなく、いい印象を与えるという考え方かな」
「そうですね。ITも同様です。ITにも、自分たちの企業にとってのIT観があります。新しいものに次から次にチャレンジして、競争相手よりも一歩先に行って費用対効果を先取りするという考え方を取る企業もあれば、自分たちが大事と思うITをじっくり育てて、なるべく倹約しながら長く使う。事業としてパーっといくこともないけれど、持続性を重視していく。また“ITなんて関係ない、動きゃいい”という考え方だってあっていい」
「うんうん」
「企業には、そもそもの成長の在り方というものがありますから、その成長の在り方をITでどう考えていくか。セレブ的に新しいものを追いどんどん費用対効果を取っていく考え方もあれば、じっくりと昔からのものを使い続ける方法もあるし、まったく無頓着にとにかく安いものを使うという考え方だってある」
「何かわかる気がするね。こういうことでしょ? 経営の立場から見ると、投資やコストに掛けられるおカネは有限なわけだから、そりゃおカネが沢山あって、投資がどんどんできるようならば、どんどんいろいろなことにトライできるわけだ。ウチの場合“おカネは出さない、でも効果を出せ!”ってことを経営は求めるなぁ」
「それ、それです! ITというのは、後で申し上げたいと思うんですが、ライフラインであり、設備であり、装備ですから、投資をして見直しをしないと効果は出ないものなんです。“カネも使うな、効果を出せ”。これはもう旧日本軍のようですね、もう経営じゃありません」
「まぁ、ウチもR&Dを積極化したりやM&Aも考えたりしているようだから、カネ自体がないというわけじゃないんだろうけど、ITがメインの投資先じゃないよね。そうならば、“潤沢じゃないけどゼロではない投資を如何に上手く使うか?”というのがテーマな感じだね。ところで、まったく何もしないというのはあるの?」
「当然あります。ITがもらたす効果はどこまでいっても業務効率なんですが、その業務効率がいらない企業、いらないステージというのは存在します。当然、一銭も使わないというのではなく、積極的な支出を行わないという意味ですと、財務体質を改善したいフェーズとか、十分に投資を行って効果回収を行った企業などは、こういうモラトリアムな時期があってもいいと思います」
「ウチの会社は、会社としてはセレブかもしれないけど、ITに関しては違うなぁ…。そういう意味では俺と似てるな。会社としてはカネはないわけじゃないけど、他にいろいろかかるので、ITの可処分所得が少ない。あぁ、俺ってそういう人生なんだな」
仮想敵を定める
「あ、そうですね。そういう人生なんですよ。あきらめましょう。で、次、なんだったと思います?」
「“負けたくない人はいるか?”だったね」
「そうですね。これは、自分たちのスタンスを決めるのに必要なんですよね。明快な敵やライバルがいると、そこには負けたくないというのが決まっています。不思議なんですけど、企業は顧客や事業ではバリバリに競争するんですけど、ITでは競争の概念がボンヤリするんですよ。“横並び”になっちゃう。でも、最近思い始めたんですが、横並び意識も悪くはありません。目安としては重要です。ただ大切なことは、単に横並びを考えるのではなく、きちんと“仮想敵”を設定してほしいんです」