アップル対アップル

三国大洋

2012-02-15 14:14

 前回(iエコノミーの光と影--アップルがヒールになる日…?)の終わりに、New York Times(以下、NYTimes)が1月下旬に「iEconomy」と題した続き物の特集記事を掲載したこと、そしてそのタイミングはアップルの2011年10〜12月期決算と、同日のオバマ米大統領による年頭教書演説という2つの大きなイベントを計算に入れていたかに思えるという話をした。

 そのタイムラインを改めて整理すると下記のようになる。

  • 1月21日:NYTimes iEconomy前編
  • 1月24日:アップル決算発表、オバマ大統領年頭教書演説
  • 1月25日:NYtimes iEconomy後編

 今回はNYTimes記事の内容に触れたあと、大統領選挙という一大イベントを控えた米国で「雇用」——とくに中流層を維持していくための製造業での雇用創出が大きな争点になりつつあるという話を簡単にしていく。

 ただし、その前にアップルが発表した第4四半期(Q4)決算がどれほど異例なものであるかを今一度みておきたい。

アップルが「特別な会社」になったことを印象づけたQ4決算

 すでに各所で報じられているとおり、アップルのQ4決算は、売上は463億ドル(前年同期比73%増)、利益は131億ドル(同2倍以上)、一株あたりの利益は13.87ドルといずれも過去最高を記録。さらに粗利率も44.7%と、前年同期の38.5%から大きく改善した(註1、註2)。

 この結果がどれほど「異例」(extraordinary)なものであるか。

 そのことをうまく伝えようと工夫したさまざま記事が、発表からしばらくの間、ウェブ上で公開されていた。たとえば「売上額でマイクロソフト全体(209億ドル)を超えたiPhone事業(244億ドル)」(図1)というものもあったし(註3)、アップルの利益131億ドルについて「日本の電機メーカー3社——パナソニック、ソニー、シャープ——が計上した赤字額の合計(129億ドル)を埋めてもさらにお釣りがくる」という分析がWSJに載ったりもした。

図1:アップル(上)、グーグル(左下)、マイクロソフト(右下)の売上
図1:アップル(上)、グーグル(左下)、マイクロソフト(右下)の売上(出典:Future Journalism Project)※画像クリックでFJPの記事にアクセス

 こうした数字自体に付け加えることはない。ただし、この決算が発表直後にNHKテレビの朝のニュースで採り上げられたことは記しておきたい。iPhoneやiPadの新機種発売時にできる購入希望者の行列を撮影しようと、テレビなど報道各社のクルーがApple Storeの前に詰めかけるのは日本でもすでに馴染みのある光景となった感がある。だが、決算の結果がテレビの一般ニュース(BSであったにしても)で、というのはこれまでほとんどなかったように思う。

 アップルの「異例の好決算」は、当然「iエコノミー」の「光」にあたる部分のひとつだ。しかし同時に、それが同社の思惑とは関係なくある種の「パンドラの箱」を開けることになったのかもしれない、という感触もある。

 この点については、次のNYTimes特集記事、オバマ大統領の年頭教書演説に触れながら考察を進めてみたい。(註の最後に次ページへのリンクがあります)

註1:特別なQ4決算 その1

この発表前に420ドル前後で推移していたアップルの株価(AAPL)は、発表後いっきに450ドル台まで上昇。さらにその後もじりじりと上がり続けて来ており、2月13日(米国時間)には500ドルを突破、過去最高値を更新した。

アップル株の推移(出典:Google Finance)
アップル株の推移(出典:Google Finance)

註2:特別なQ4決算 その2

アップルのQ4決算が大方の想像を超える好決算であったことは、アナリストの予想との乖離の大きさからも見てとれる。Fortuneの「Apple 2.0」は四半期ごとに、合わせて40〜50人ほどもいる「アップル・ウォッチャー」のコンセンサスと実際に発表された数字を見比べ、予想の精度に関するランキングを発表している。

対象となっているのは金融系の証券アナリスト("Institutional Analysts")が大半だが、一部にはウェブをベースに活動している「独立系」の個人コンサルタントやアマチュア("Independent Analysts")も含まれる。

Q4の数字については「Apple's blow-out quarter: Once again, the Street blew it」にある表の通りで、常々控えめな数字を出していたアップル自体の業績見通し(売上370億ドル、一株あたり利益9ドル30セント、粗利率40%)や、商売柄あまり強気な数字は出しにくいプロのアナリストのコンセンサス("Institutional Consensus":売上393.2億ドル、一株あたり利益10.24ドル、粗利率40.8%)はもちろんのこと、ぎりぎりまで強気な数字を出してくる独立系ウォッチャーのコンセンサス("Independent Consensus":売上431.4億ドル、一株あたり利益12ドル1セント、粗利率42.2%)さえ上回っている。

乱暴にいってしまえば、アップル自身もふくめ「誰も予想しなかったほどの好決算」だったのかも知れない。


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